
外国人観光客の増加に伴い、ホテルや飲食店、小売店などでは「外国語で案内できない」「外国人のお客様が支払い方法で困っている」「荷物を預かる場所がない」といった課題が増えています。
こうした外国人旅行者の受け入れ環境を改善するために東京都が実施しているのが、「インバウンド対応力強化支援事業補助金」です。
簡単にいえば、「外国人観光客が利用しやすいお店・施設にするための費用を、東京都が一部負担してくれる制度」です。
たとえば、ホームページや店内案内を外国語にしたり、キャッシュレス決済を導入したり、防犯カメラや荷物預かり設備を設置したりする費用などが補助対象になる可能性があります。
令和8年度は、2026年4月1日から2027年3月31日まで募集されています。ただし、予算額に達した場合には期間内でも受付が終了するため、利用を検討している場合は早めに準備することが重要です。
インバウンド対応力強化支援事業補助金とは?
インバウンド対応力強化支援事業補助金は、東京都と公益財団法人東京観光財団が実施している補助制度です。
東京都内の宿泊施設、飲食店、小売店、体験型コンテンツ提供施設などが、東京を訪れる外国人旅行者にとって、より便利で快適なサービスを提供できるようにすることを目的としています。
「インバウンド」という言葉を聞くと、ホテルや大型観光施設だけが対象だと思う方もいるかもしれません。
しかし、この制度では一定の条件を満たせば、東京都内の飲食店や小売店などの中小企業も対象になります。
そのため、
- 外国人のお客様が増えてきた飲食店
- 外国人観光客が商品を購入する小売店
- 日本文化などの体験サービスを提供している事業者
- ホテル・旅館・簡易宿所
- 観光バス・観光タクシー事業者
などにとって、活用を検討する価値のある補助金です。
どのような事業者が対象になる?
令和8年度の主な補助対象者は、次のようになっています。
東京都内で旅館業法の許可を受けて旅館・ホテル営業または簡易宿所営業を行っている施設、東京都内の飲食店や小売店、体験型コンテンツ提供施設、観光バス事業者、観光タクシー事業者などです。
飲食店・小売店・体験型コンテンツ提供施設については、原則として中小企業者であることが条件とされています。
また、1社だけで取り組むケースだけでなく、外国人旅行者の受け入れに取り組む中小企業団体や、複数の観光関連事業者によるグループも対象になります。
つまり、「外国人観光客向けのサービスを改善したいけれど、設備投資や制作費が負担になる」という東京都内の観光関連事業者を支援する制度だと考えると分かりやすいでしょう。
何に補助金を使える?
この補助金の大きな特徴は、対象となる取り組みが比較的幅広いことです。
代表的なものを見ていきましょう。
ホームページや案内表示の多言語化
代表的なのが多言語対応です。
たとえば、
「日本語しかないホームページを英語や中国語などにも対応させたい」
「店内の利用案内を外国人にも分かるようにしたい」
「外国人旅行者に日本独自のルールやマナーを説明したい」
といった取り組みです。
施設の利用案内、マナー啓発、ホームページの多言語化などが対象事業として明示されています。
外国語対応を進めることで、外国人のお客様が来店前にサービス内容や料金を理解しやすくなり、来店後のトラブル防止にもつながります。
外国人向けグルメサイトへの掲載
外国人旅行者向けのグルメサイトへの登録・掲載も対象事業となっています。
外国人旅行者の中には、来日前からインターネットを利用して飲食店を探している人も少なくありません。
自社サイトだけでは外国人旅行者に見つけてもらえない場合でも、外国人向けサービスやグルメサイトを利用することで、新しい顧客との接点を増やせる可能性があります。
インバウンド対応のための人材育成
外国人のお客様への接客方法を学ぶための研修会などの人材育成も対象です。
たとえば、
「外国語が話せなくてもできる接客方法をスタッフに学ばせたい」
「外国人のお客様への対応方法を社内で統一したい」
「文化や宗教の違いについてスタッフに理解してもらいたい」
といった取り組みが考えられます。
設備を新しくするだけではなく、スタッフの対応力を高める取り組みに利用できるのも、この制度のポイントです。
Wi-Fi環境の整備
外国人旅行者にとって、旅行中にインターネットへ接続できる環境は重要です。
この補助金では、公衆無線LANの設置も対象事業とされています。
ホテルや飲食店、観光施設などでWi-Fi環境を整備することで、外国人旅行者が地図を確認したり、観光情報を検索したり、SNSで情報を発信したりしやすくなります。
キャッシュレス決済の導入
クレジットカード、電子マネー、多通貨決済などのキャッシュレス機器の導入も対象です。
外国人旅行者が来店したものの、
「現金しか使えないので購入をあきらめた」
という状況は、店舗側にとって大きな機会損失になります。
キャッシュレス決済環境を整えることで、外国人旅行者が買い物をしやすくなるだけでなく、日本人のお客様にとっても便利になります。
手荷物預かり設備も対象
観光地では、大きなスーツケースを持った外国人旅行者を見かけることも珍しくありません。
そこで活用できるのが、ロッカーやセルフクロークなどの手荷物預かり設備です。
これらの設備導入も補助対象事業に含まれています。
ホテルだけでなく、観光施設などが荷物を預けられる環境を整えることで、外国人旅行者が身軽に観光できるようになります。
トイレの多機能化にも利用できる
外国人旅行者が安心して施設を利用できる環境を整えるため、トイレの多機能化も対象です。
令和8年度の制度では、男女共用多機能トイレの設置が対象事業として挙げられています。
観光施設や宿泊施設などで受け入れ環境を整えたい場合には、こうした設備投資についても検討できます。
文化や習慣の違いに対応する設備も対象
外国人旅行者を受け入れる場合には、言葉だけではなく、宗教や食文化、生活習慣などの違いに配慮する必要があります。
この補助金では、多様な文化・習慣を持つ外国人旅行者の受け入れ対応に関する整備も対象事業とされています。
自社のサービス内容によって、どのような整備が必要なのかを考えてみるとよいでしょう。
防災対策や防犯カメラも対象
外国人旅行者にとって、地震や台風などが発生したときに「どこへ避難すればよいのか分からない」という問題があります。
そのため、外国人旅行者向けの防災マップの作成など、災害時の受け入れ対応も対象になっています。
さらに、令和8年度は防犯カメラの設置も対象です。
店舗や施設の防犯対策を強化しながら、外国人旅行者が安心して利用できる環境を整えられる可能性があります。
補助率はいくら?
最も気になるのが、「実際にいくら補助してもらえるのか」という点でしょう。
基本的な補助率は、補助対象経費の2分の1以内です。
つまり、対象となる事業に200万円かかった場合、条件を満たせば最大100万円が補助されるイメージです。
ただし、多言語対応に係る事業については補助率が3分の2以内となっています。
たとえば、多言語対応として補助対象になる事業費が150万円だった場合、単純計算では最大100万円が補助対象になる可能性があります。
多言語化を考えている事業者にとっては、特に注目したいポイントです。
補助金の上限はいくら?
宿泊施設、飲食店、小売店、体験型コンテンツ提供施設、観光バス事業者、観光タクシー事業者については、
1施設・1店舗・1営業所あたり最大300万円
が補助上限です。
一方、中小企業団体や観光関連事業者グループの場合は、
1団体・1グループあたり最大1,000万円
となっています。
なお、防犯カメラについては別途限度額が設定されており、1施設あたり上限90万円、最大15か所とされています。
つまり、「何でも300万円まで補助される」という意味ではありません。
実際に支給される金額は、対象となる経費、補助率、事業内容などによって決まります。
300万円使ったら、いくら補助される?
簡単な例で考えてみましょう。
通常の対象事業について300万円の補助対象経費が認められた場合、補助率は2分の1以内です。
そのため、単純計算では、
300万円 × 1/2 = 最大150万円
となります。
一方、多言語対応として300万円の補助対象経費が認められた場合、補助率は3分の2以内なので、
300万円 × 2/3 = 最大200万円
という計算になります。
補助上限が300万円だからといって、自動的に300万円が支給されるわけではない点には注意しましょう。
いつまで申請できる?
令和8年度の募集期間は、2026年4月1日から2027年3月31日までです。
郵送の場合は2027年3月31日の当日消印有効、Jグランツによる電子申請の場合は同日17時が締め切りとなっています。
ただし、非常に重要な注意点があります。
この補助金は、補助金申請額が予算額に達した時点で受付終了となります。
つまり、「2027年3月31日までだから、来年になってから申請すればいい」とは限りません。
利用したい事業者は、できるだけ早く事業内容を決め、見積もりや申請書類の準備を始めたほうがよいでしょう。
補助金を使うなら「先に購入しない」ことが重要
この補助金を利用するうえで、特に注意したいポイントがあります。
それは、交付決定前に購入・設置などを行わないことです。
東京観光財団は、交付決定後に開始される事業が対象であり、事前に購入・設置されたものは対象にならないと明記しています。
たとえば、「補助金を使ってキャッシュレス端末を導入しよう」と考えていたとしても、交付決定を待たずに先に購入してしまうと、その費用が補助対象にならない可能性があります。
したがって基本的には、
申請 → 交付決定 → 発注・購入・工事
という順番を守ることが非常に重要です。
申請方法は郵送またはJグランツ
令和8年度は、郵送または国の電子申請システム「Jグランツ」から申請できます。
Jグランツを利用する場合には、原則としてGビズIDプライムのアカウントが必要です。
GビズIDプライムは申請してすぐに必ず発行されるものではなく、審査に時間がかかる場合があるため、電子申請を予定している事業者は早めに準備しておいたほうがよいでしょう。
補助金申請を業者へ丸投げすることはできない
もうひとつ注意したいのが、申請代行です。
東京観光財団は、代行申請は受け付けていないと明記しています。
さらに、発注予定先の会社などが申請書類の作成や相見積書の取得まで代行したことが判明した場合、交付対象にならないと注意喚起しています。
補助金申請を持ちかけて手数料をだまし取る事例もあるとして、注意が呼びかけられています。
サービスや設備の導入会社を選ぶ際には、複数社を比較しながら、申請者自身が制度内容を確認することが大切です。
こんな事業者は活用を検討してみよう
インバウンド対応力強化支援事業補助金は、単純に「外国人向けの広告を出すための補助金」ではありません。
外国人旅行者が実際に店舗や施設を利用するときの不便を解消し、安心・快適に利用できる環境を作ることが主な目的です。
たとえば、
「外国人のお客様が増えたが、メニューが日本語しかない」
「海外から問い合わせが来るが、ホームページが日本語しかない」
「クレジットカードや海外の決済方法に対応したい」
「外国人のお客様の大きな荷物を預かれるようにしたい」
「災害時に外国人へどう案内すればよいか分からない」
「外国人観光客が増えたので、防犯対策を強化したい」
といった課題を抱えている事業者は、利用できる可能性があります。
補助金ありきではなく「何を改善したいか」から考える
補助金を利用するときに大切なのは、「補助金が出るから何か買おう」と考えるのではなく、「外国人のお客様がどこで困っているのか」を最初に考えることです。
たとえば、外国人のお客様から同じ質問を何度も受けているのであれば、多言語の案内ページを作る。
現金を持っていない外国人のお客様が購入をあきらめているのであれば、キャッシュレス決済を導入する。
大きなスーツケースを持った外国人旅行者が多いのであれば、荷物預かり設備を導入する。
このように、
現在の課題 → 解決方法 → 必要な設備・サービス → 補助金の活用
という順番で考えると、事業計画も作りやすくなります。
まとめ
インバウンド対応力強化支援事業補助金は、東京都内の宿泊施設、飲食店、小売店、体験型コンテンツ提供施設などが、外国人旅行者の受け入れ環境を改善するために活用できる制度です。
多言語化、外国人向けグルメサイトへの掲載、人材育成、Wi-Fi、キャッシュレス決済、手荷物預かり設備、多機能トイレ、防災対策、防犯カメラなど、さまざまな取り組みが対象となっています。
一般的な補助率は対象経費の2分の1以内、多言語対応については3分の2以内です。
また、一般の対象事業者については1施設・1店舗・1営業所あたり最大300万円、中小企業団体や観光関連事業者グループについては最大1,000万円の補助枠が設けられています。
令和8年度の申請期限は2027年3月31日ですが、予算に達すれば早期終了する可能性があります。
さらに、交付決定前に購入・設置したものは対象にならないため、
「これから外国人向けの設備やサービスを導入したい」
という段階で制度を確認することが重要です。
外国人観光客の受け入れは、一部の大手ホテルや観光施設だけの課題ではありません。
飲食店、小売店、体験サービスなどにとっても、外国人旅行者が利用しやすい環境を作ることは、新しい顧客の獲得や売上拡大につながる可能性があります。
インバウンド対応のためにホームページの多言語化や設備投資、キャッシュレス化などを検討している東京都内の事業者は、導入前に一度、この補助金を利用できないか確認してみるとよいでしょう。



