コロナ禍における緊急事態宣言や外出自粛命令などの影響により、事業の縮小を余儀なくされたという事業者の方は少なくないと思います。そんな中、休業措置や雇用調整、出向などを行って従業員の雇用を維持した事業主に対し、休業手当などの一部を助成する制度に「雇用調整助成金」があるのをご存じですか?

最近ではニュースで度々取り上げられることもあり、制度の名前については知っている方も多いかもしれませんが、「内容についてはよく分からない」「自分は支給対象なんだろうか?」と思っている方もいるのではないでしょうか。

そこで今回は、「雇用調整助成金」の制度の内容や申請手順について、詳しく見ていくことにしましょう。

雇用調整助成金とは?

雇用調整助成金とは、「新型コロナウイルス感染症の影響」によって事業の縮小を余儀なくされた際に、従業員の雇用維持を図る目的で、労使間の協定に基づいて「雇用調整(休業)」を行った事業者に対して休業手当などの一部を助成する制度。休業させたケースはもちろんのこと、事業主が労働者を出向させることで雇用が維持された場合も雇用調整助成金の支給対象となります。

雇用調整助成金は通常時(新型コロナウイルス感染症ではない経済上の理由によるもの)でも行われている制度ですが、今回の特例措置(令和2年4月1日~令和3年11月30日までの緊急対応期間)では、助成率や上限額の引き上げが行われている点が大きな特徴です。

たとえば、教育訓練を実施した場合には「教育訓練を受けた労働者一人につき最大2,400円/日(大企業の場合は上限額1,800円)」が加算されるなど、通常の雇用助成金よりも助成内容が非常に充実しています。

※通常時に関する雇用調整助成金の内容が知りたい方は、下記にて詳細を確認することが可能となっています。

厚生労働省 雇用助成金(通常版)

制度の内容を細かくチェックしていきましょう。

支給対象

「新型コロナウイルス感染症に伴う特例措置」での雇用調整助成金は、下記の条件を満たす事業主が対象となっており、全ての業種で申請することが可能となっています。

雇用調整助成金の支給対象条件

  • 新型コロナウイルス感染症の影響により経営が悪化し、事業活動が縮小している
  • 最近1か月の売上高や生産量などが前年の同月に比べて5%以上減少している(※)
    ※比較対象する月について柔軟な取扱いとする特例措置もあります
  • 労使間の協定に基づき休業などを実施し、休業手当を支払っている

ちなみに「休業措置や雇用調整、出向などを行った従業員とは具体的にどんな人を指すのか?」と思う方もいるかもしれませんが、これについては基準が明確に設定されており「事業主に雇用された雇用保険被保険者」に対する休業手当が対象となっています。

また、学生アルバイトを始めとする雇用保険被保険者以外への休業手当は「緊急雇用安定助成金」という別の助成金を活用できますので、従業員の雇用体系に合わせて適切な助成金を選択するようにしましょう。なお「緊急雇用安定助成金」は雇用調整助成金と同様に申請が可能です。

助成額や助成率、支給限度日数の目安

次に、雇用調整助成金の助成額・助成率について確認していきましょう。

雇用調整助成金の算定方法は、

(平均賃金額×休業手当等の支払い率)×助成率

となっています。

助成率に関しては、中小企業と大企業で金額が異なりますので、該当箇所を参考にしていただきたいと思いますが、小規模事業所(おおむね20人以下)に関しては、平均賃金額の算定を簡略化する特例措置がありますので、詳細が気になる方はコールセンター(後述)へ問い合わせることをおすすめします。

中小企業の場合

雇用調整助成金における「中小企業」とは、以下のような企業を指します。

  • 小売業(飲食店を含む): 資本金5,000 万円以下 または従業員50人以下
  • サービス業: 資本金5,000 万円以下 または従業員100人以下
  • 卸売業: 資本金1億円以下 または従業員100人以下
  • その他の業種: 資本金3億円以下 または従業員300人以下

中小企業の助成率は次の通りです。

判定基礎機関の初日 20214月末 2021年5月末~11月末 分類
原則的な措置(全国) 4/5(10/10)

15,000円

4/5(9/10)

13,500円

業況特例(全国)(1) 4/5(10/10)

15,000円

地域にかかる特例 緊急事態宣言(2) 4/5(10/10)

15,000円

まん延防止等重点措置(3) 4/5(10/10)

15,000円

※1:売上高等の生産指標が最近3か月平均で前年又は前々年同期に比べ30%以上減少している全国の事業主が該当
※2:緊急事態宣言対象区域において、特定都道府県知事の要請を受けて営業時間の短縮等に協力する事業主が該当
※3:まん延防止等重点措置を実施すべき区域で、都道府県知事の要請を受け営業時間の短縮等に協力する事業主が該当

大企業の場合

判定基礎機関の初日 20214月末 2021年5月末~11月末 分類
原則的な措置(全国) 2/3(3/4)

15,000円

2/3(3/4)

13,500円

業況特例(全国)(1) 4/5(10/10)

15,000円

4/5(10/10)

15,000円

地域にかかる特例 緊急事態宣言(2) 4/5(10/10)

15,000円

4/5(10/10)

15,000円

まん延防止等重点措置(3) 4/5(10/10)

15,000円

※1:売上高等の生産指標が最近3か月平均で前年又は前々年同期に比べ30%以上減少している全国の事業主が該当
※2:緊急事態宣言対象区域において、特定都道府県知事の要請を受けて営業時間の短縮等に協力する事業主が該当
※3:まん延防止等重点措置を実施すべき区域で、都道府県知事の要請を受け営業時間の短縮等に協力する事業主が該当

中小企業、大企業に関わらず、上記金額は一人一日あたりの上限額であり、()内に記載してある助成率は解雇などを行わない場合の割合になりますので、注意しておきましょう。

また上記の表の「分類」については、
Ⅰ:令和2年1月24日から判定基礎期間の末日までの解雇等の有無及び「判定基礎期間末日の労働者数が各月末の労働者数平均の4/5以上」の要件により適用する助成率を判断
Ⅱ:令和3年1月8日から判定基礎期間の末日までの解雇等の有無により適用する助成率を判断
となっていますので参考にしてください。

なお、この助成金の支給限度日数は、原則として「1年で100日分、3年で150日分」という決まりがありますが、緊急対応期間中(令和2年4月1日~令和3年11月30日)に実施した休業に関しては、この支給限度日数とは別に支給を受けることが可能となっています。

支給の流れおよび申請手順

通常、雇用調整助成金の支給の流れは、

  1. 休業計画、労使協定…休業の内容を検討し、労使間で休業についての協定を締結する
  2. 休業等の実施…計画届に戻づいて休業等の措置を実施する
  3. 支給申請…支給対象期間ごとに支給申請を行う
  4. 労働局の審査…労働局で申請内容を審査する
  5. 支給決定…支給決定額が振り込まれる

といった流れになります。

ただし今回の雇用調整助成金では、緊急対応期間中の特例で「計画届」の提出が不要になっていますので、比較的スムーズに申請ができるものと思われます。

また雇用調整助成金の申請に必要となる書類は、下記の通りです。

  • 雇用庁調整事業所の事業活動の状況に関する申出書
    (生産低下が確認できる書類や売り上げがわかる既存書類等の添付が必要)
  • 支給要件確認申立書、役員一覧
  • 休業、教育訓練実績一覧
  • 助成額算定書
  • 休業等支給申請書
  • 休業協定書
    (労組の組合員名簿または労働者代表選任書の添付が必要)
  • 事業所の規模を確認する書類
  • 労働、休日の実績に関する書類
  • 休業手当、実績に関する書類

もし「書類が複数枚にわたって膨大になる」というときには、「txt」「csv」「PDF」といったファイル形式に落としてCDやDVDの形で提出することも認められています。ただし、その際には書類ごとにファイルを分けるとともに、そのうちの1~2枚を見本として印刷・提出することが必要になりますので、忘れないように添付しましょう。

書類提出時の注意点としては、定期的な制度の見直しにより、その都度「申請様式が改定される可能性がある」という点。そのため申請書類をダウンロードする際には、必ず「その書類のバージョンが最新のものになっているか?」を確認しておきましょう。旧様式で申請を行ってしまうと、申請内容の確認に時間を要する可能性があります。

申請書類の提出先および問い合わせ窓口

雇用調整助成金の提出先は、「事業所の所在地を管轄する労働局またはハローワーク」となっています。直接持参することも可能ですし、郵送での申請も受け付けています。

問い合わせ窓口

  • 都道府県労働局、公共職業安定所(ハローワーク)
    ⇒窓口一覧(https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_10702.html)
  • 雇用調整助成金、産業雇用安定助成金、学校等休業助成金・支援金コールセンター
    ⇒電話番号:0120-60-3999、受付時間 9:00~21:00(土日・祝日含む)
  • 厚生労働省公式LINEアカウント
    ⇒お友達追加リンク(https://lin.ee/qZZIxWA)より友達に追加し、「情報を探す」の項目から「雇用調整助成金特例措置」を選択

申請の問い合わせは、コールセンターへの電話が最も手軽で質問もしやすいのですが、現在は問い合わせが殺到しており、特に日中は電話がつながりにくい状況ということのようです。電話が繋がらず問題が解決しない場合には、雇用調整助成金のホームページにあるマニュアルやFAQを確認するか、「ハローワーク」「LINE」などを活用することをオススメします。

まとめ

今回の記事では、雇用調整助成金(新型コロナウイルス感染症に伴う特例における「雇用調整助成金」の制度の内容や申請手続きについて詳しく解説しましたがいかがでしたか?

国が実施する助成金や補助金は、申請書類が多かったり添付書類の準備に時間を要したりと、申請を行うまでのプロセスが複雑に感じられることも多いもの。しかし今回の雇用調整助成金(特例措置)では「休業計画書の提出不要」「LINEでの問い合わせにも対応」など申請する事業主に配慮した仕組みが複数用意されています。

また特例措置による雇用調整助成金は通常版より「助成率や上限額が引き上げられている」点も大きなメリットですから、制度に該当する方はぜひこの機会に申請してみてはいかがでしょうか。

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