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グローバルサウス未来志向型共創等事業費補助金とは?
本補助金は、略して「グローバルサウス補助金」とも呼ばれ、日本企業が、経済成長著しい「グローバルサウス」諸国(伝統的に「途上国」や新興国とされる地域)に対し、インフラ整備・社会インフラ・サービス等を通じた海外展開を行う際の FS(事業実施可能性調査) や 小規模実証事業 にかかるコストの一部を支援する制度です。
目的は大きく次の2つです。
- グローバルサウス諸国が抱える社会的・経済的課題の解決を支援し、それら国々の市場成長力を活かす。
- 日本国内のイノベーション促進やサプライチェーン強靱化につなげることで、日本産業全体の活性化および安全保障の強化を図る。
つまり、単なる海外進出支援ではなく、グローバルサウス国の“ニーズ × 日本の技術・ノウハウ”をかけあわせ、「共創型ビジネス」や「社会インフラの発展」「持続可能性のある事業基盤づくり」を促すための制度、という位置づけです。
対象国・対象分野
制度上明確な一覧は限定されていないが、概ね「グローバルサウス諸国」と呼ばれる、新興国・途上国を想定。具体的には、アジア(特にASEAN地域)、アフリカ、中南米、太平洋島嶼国など、経済発展の途上にある国々が含まれる。
経済インフラ:情報通信(ICT)、エネルギー、交通、都市基盤など。
社会インフラ:医療・ヘルスケア、農業・食品、廃棄物処理など。
デジタル・プラットフォームやサービス分野なども想定。
そのため、環境、農業、ヘルスケア、エネルギー、都市インフラ、ICT/デジタルなど、幅広い分野での活用が可能です。
補助対象事業と事業類型
本補助金では、主に以下の 2つの事業形態 に対して支援を行います。
FS(フィージビリティ・スタディ)事業
現地調査、基本設計、需給・経済性分析、市場・競合分析、リスク評価など、新規事業やインフラ展開の「可能性」を探る調査フェーズ。
小規模実証事業
既にある程度実用可能な技術・システム・サービスを、グローバルサウス国で小規模に実証し、商用化や拡大展開に向けた有効性・経済性を検証するフェーズ。
ただし、「研究開発そのもの」「設備投資(大規模なプラント建設など)」が対象ではなく、“事業化のための準備・調査・実証”に限定される点が重要です。
さらに、補助金の対象となる事業は、次の 3つの類型 のいずれか(または複数)に該当する必要があります。
| 類型 | 目的・狙い |
|---|---|
| 類型1:共創型(我が国のイノベーション創出) | グローバルサウス側で得られた知見やデータを起点に、“リバースイノベーション”として日本国内でも新たなイノベーションを生み出す可能性のあるモデル。 |
| 類型2:海外展開型(日本の高度技術) | 日本の先進技術やノウハウを現地に展開し、現地でデファクトスタンダード化を目指す事業。成功すれば日本の雇用創出や産業拡大にも貢献。 |
| 類型3:サプライチェーン強靱化型 | 日本の輸入依存度が高い物資・資源などを、グローバルサウス側で多角的に調達可能とすることで、供給構造の多様化と安定性を確保することを狙う。 |
補助のスキーム・条件(補助率・金額・申請枠など)
直近の公募(令和5年度補正分)では、以下のような条件で募集が行われました。
補助率:原則 1/2以内。ただし、中小企業については 2/3以内。
補助上限額: 1 億円。
併用不可:他の国庫補助金との併用は認められない。
申請形態:単独申請または共同申請が可能。複数案件の申請も可能(ただし、同一内容の分割申請や重複申請は不可)とされている。
事業期間:交付決定日から 2026年2月28日 まで。
採択予定数:FS事業および実証事業をあわせて 約120件程度。
また、申請は電子申請で、必要書類を所定の形式で提出する必要があります。共同申請の場合、すべての共同申請者が中小企業である場合にのみ中小企業向け補助率を適用可能、などの制約があります。
なぜ今、この補助金が注目されるのか — 背景と狙い
近年、世界における地政学の変化、供給網の分断リスク、さらには脱炭素(GX)やSDGsといった価値観の国際的な高まりの中で、日本企業にとって「従来の欧米一辺倒の海外展開」だけでなく、新興国・途上国(グローバルサウス)との関係構築が重要になっています。特に、サプライチェーンの多様化、資源・エネルギー確保、新興国の市場の成長ポテンシャルなどを見据えた取り組みが求められています。
本補助金は、そうした国際情勢の変化と日本の産業政策の両面を反映した制度であり、民間企業による「グローバルサウスとの共創型ビジネス」の促進を強く後押しするものです。特に、欧州や米国市場とは異なる新興国に対して、“日本の技術 × 現地ニーズ × 持続可能性” という軸で挑戦できる機会を提供する点が大きな特徴といえます。
また、単なる短期的な利益追求ではなく、長期的な「共存共栄」「持続可能な供給網」「新市場開拓」「イノベーション創出」を視野に入れている点も、SDGs時代にマッチした補助制度であると言えます。
最近の動向・公募状況(2025年)
令和6年度補正分の「小規模実証・FS事業」の一次公募が 2025年5月12日 より開始されました。
その後、二次公募も 2025年11月 に開始されており、引き続き公募が行われています。
また、採択例として、例えば 豊田通商 が、アフリカでの給水強化事業や、タイでのスマート酪農の実現可能性調査など、環境・農業・社会インフラを対象とした事業で採択されている。
これらの採択事例から分かるように、環境負荷低減、脱炭素、循環型社会、食料供給、インフラ整備など、SDGsに関連するテーマとの親和性が高い案件が採り上げられており、今後の動きにも注目が集まっています。
なぜ企業や起業家はこの補助金に注目すべきか
この補助金は、次のような企業・起業家にとって特に有力な選択肢となりえます。
- グローバル展開を目指す企業、特に新興国/途上国への進出を検討している企業。
- 環境・SDGs対応、脱炭素、社会インフラ、農業、医療など、社会性と事業性を兼ね備えたビジネスを模索している企業。
- 日本国内だけでなく、グローバルなサプライチェーン強靭化や資源多様化に関心がある企業。
- 技術開発ではなく、「事業化」「実用化」「ビジネスモデル構築」を目的とする企業やスタートアップ。
また、日本国内の市場が成熟し、競争が激しくなる中で、成長余地の大きいグローバルサウス市場に早期に参入し、制度の支援を活かすことで、先行者利益を得るチャンスがあります。特に、公共インフラや社会課題の解決と結びついた事業は、社会的な価値も高く、企業のブランディングやESG/SDGs対応という観点からもアピールしやすいでしょう。
申請の流れと実践的な準備ポイント
本章では、実際に申請を検討する企業が知りたい 「手続きの全体像」「必要資料」「よく落ちやすいポイント」「採択される企業の共通点」 を体系的にまとめています。
1. 申請〜採択までの大まかな流れ
グローバルサウス補助金の応募プロセスは、大きく以下の段階に分かれています。
① 公募要領の確認
- 最初に「公募要領(募集案内PDF)」を精読する。
- 類型(1〜3)、補助率(1/2 or 中小2/3)、必須条件、対象経費を確認する。
- 共同申請の可否や補助対象国の要件なども要確認。
- 公募要領は毎回細部が変わるため、過去年度の内容を鵜呑みにしてはいけない。
② 事業計画のブラッシュアップ(最も重要)
- 事業目的と類型(共創型、海外展開型、SC強靭化型)の整合性
- 新規性・独自性
- 日本企業としての優位性
- なぜその国で実施する必要があるのか(国の課題 × 日本技術)
- 実現可能性(FSなら調査項目、実証なら技術の完成度)
審査では「書いていることが信頼できるか」「実現性があるか」が重視される。
③ 必要書類の準備
提出書類の代表例は次の通り。
- 申請書(様式第1号)
- 事業計画書(様式第2号)
- 経費明細書
- 会社概要/過去の実績資料
- 共同申請の場合:協定書・役割分担の記述
- 海外現地パートナーの協力意向書(LOI)
- 決算書(直近2期)
特に実証事業では、現地パートナーの存在が重要なため LOI(意向書) は高評価につながる。
④ 電子申請(提出)
- 公募期間は短く、書類量も非常に多い。
- 一般的な補助金より記述量が多く、海外案件ゆえに「根拠資料の裏付け」が必要。
⑤ 書類審査・ヒアリング審査
- 書類審査で絞り込まれた後、ヒアリング(面談)が実施される。
- 審査委員からの質問に対し、担当者がロジカルに回答できるかが鍵。
- ヒアリングに弱い企業は落ちやすいため事前リハーサルが必須。
⑥ 採択発表→交付申請→交付決定
採択後にも 交付申請(精緻化した予算と計画書の提出) があるため、採択されたら終わりではなく、むしろここからが実務のスタートとなる。
2. 申請書に必ず書くべき「5つの核心要素」
審査員は“文章のきれいさ”よりも次の項目を重視する。
① 事業目的の明確性
「現地のどの課題を解決するのか?」
「その課題は国/政府/自治体レベルで解決要請があるのか?」
特に“なぜこの国なのか”の説明を慎重に書く必要がある。
② 日本企業としての優位性
- 日本の技術が「他国と比べてどこが優れているのか?」
- 現地の競合企業(中国・韓国企業含む)と比較した強みは?
曖昧な「高品質」「高性能」では落ちる。
定量的データ(性能比較表・実績数値) を入れることが鍵。
③ 現地ニーズと合致しているか
- 現地政府との対話状況
- パートナー企業の支援体制
- LOI、MOUの有無
ここが弱いと実効性が欠けると判断され、採択は難しい。
④ 実現可能性(FSなら調査計画、実証なら技術完成度)
- FS:調査項目が網羅されているか?
- 実証:技術がTRL4〜6程度に達しているか?
研究開発段階(TRL1〜3)だと対象外になりやすい。
⑤ 事業継続性(商用化ストーリー)
実証の後にどうスケールするのか?
- 収益モデル、現地展開のロードマップ
- 現地資金(政府、企業、国際機関)の獲得可能性
“実証で終わらない” ことを示すことが採択に直結する。
3. 不採択になりやすい典型パターン
採択率が高い年でも 20〜30% 程度。
落ちやすい企業には以下の傾向が見られる。
① 課題設定が抽象的
- 「SDGsに貢献したい」
- 「環境改善に寄与する」
- 「デジタル化の推進」
これらの“抽象的フレーズ”はNG。
「誰の、どんな課題を、どれだけ改善するか」が必要。
② 現地との関係構築が弱い
- パートナーがいない
- 政府・自治体との接点がない
- 現地ニーズの裏付けがない
審査側から見れば、「実施不可能」と判断される。
③ スケールの根拠が薄い
- 実証は成功したとして、その後どう広げるのか?
- 財務モデルが成立するのか?
“将来性”と“収益性”の説明が弱いと落ちやすい。
④ 予算根拠が甘い
- 見積書が曖昧
- 移動費・人件費の裏付けが不十分
- 外部委託費が大きすぎる
補助金全般で最も多い失敗パターン。
4. 採択される企業が必ずやっている6つの準備
これらを準備すると採択率が大きく上がる。
① 早期に現地パートナーを確保
- LOI(意向表明)
- 協力企業・研究機関
- 政府系機関・自治体
「実行主体の確保=事業の実現性」とみなされる。
② 3〜5年の商用化ロードマップの作成
- 実証→商用化→横展開
- 売上・利益の収支計画
- 現地の制度(補助金、関税、規制)との整合性
“将来像が描けているか”は最重要ポイント。
③ 技術の強みを定量化(数値で示す)
- 競合比 30% の省エネ効果
- 故障率 1/10
- コスト削減 25%
審査員は技術者ではないため、「数字」が説得力になる。
④ 他国企業との比較分析
- 日本企業 vs 中国・韓国企業
- 現地企業との優位性
- 価格差・品質差・安定供給性
海外案件では競争国分析が必須。
⑤ 事前ヒアリング練習
- 想定質問30問を準備
- 回答ロジックを統一
- 他部署を巻き込んだ“模擬面談”
採択される企業の多くが「社内での模擬審査」を実施している。
⑥ 補助金専門家(コンサル)への軽いレビュー依頼
フル支援でなくても「事業計画書の第三者チェック」を受ける企業は強い。
内製だけで作成した事業計画は、“主観的になりすぎる” ため注意。
5. 申請書に入れるべき構成テンプレート(完全版)
採択される企業が使う構成テンプレートを公開します。
(1)事業概要
- 事業目的
- 解決する現地課題
- 類型(1〜3)の該当箇所
- 対象国の理由
(2)現地課題とニーズ分析
- 定量的なデータによる課題
- 政府方針・政策との整合性
- 国内外の市場規模
(3)日本企業の強み・独自性
- 技術比較(表形式)
- 過去の国内実績
- 競合に対する優位性
(4)事業計画(FS or 実証)
- FS:調査項目一覧(技術、需要、法規制、経済性など)
- 実証:実証環境、方法、指標(KPI)
(5)事業体制・パートナー
- 日本側:代表企業、分担、ガバナンス
- 現地側:企業、自治体、研究機関
- LOI 添付
(6)リスク管理
- 政治・治安リスク
- 円安・物流リスク
- 技術的リスクと対策
(7)商用化ロードマップ
- 実証後の展開方法
- 売上計画
- 収益性
- 投資回収計画
(8)予算(根拠付き)
- 旅費
- 人件費
- 消耗品費
- 外注費
- 見積書の添付










