中小企業を支援する補助金や助成金は数多く行われていますが、雇用に関する助成金は従業員獲得や離職防止において非常に有効に働く場合があります。そんな助成金の中には厚生労働省が行っている人材確保のための「人材確保等支援助成金」というものがあります。
この人材確保等支援助成金は、職場を魅力あるものにするために労働環境向上を図る事業主や事業協同組合等に対して助成されるものです。
2024年現在設定されている助成金のコースは次の9種類となっています。
(a)雇用管理制度助成コース ※令和4年4月1日以降、整備計画の新規受付を休止
(b)中小企業団体助成コース
(c)人事評価改善等助成コース
(d)建設キャリアアップシステム等普及促進コース
(e)若年者及び女性に魅力ある職場づくり事業コース(建設分野)
(f)作業員宿舎等設置助成コース(建設分野)
(g)外国人労働者就労環境整備助成コース
(h)テレワークコース
(i)派遣元特例コース
この中で、(h)テレワークコースはコロナ禍を境に働き方が大きく変わったこともあり、労働者の人材確保や雇用管理改善等の観点から効果を出した中小企業に対して助成をおこなうものです。
目次
人材確保等支援助成金(テレワークコース)とは?
人材確保等支援助成金(テレワークコース)は、令和3年4月1日に創設された助成金です。これまでに4度改定が行われ、現在は令和6年4月1日に改正されたものが最新となります。
申請の対象は、「中小企業事業主」「新しくテレワークを始める事業主や試しにテレワークを導入している、過去に試験的に導入したことのある事業主」「テレワークを増やす取り組みを行う事業主」となります。社員を雇うとオフィスが必要になり固定費がかさむため、資金繰りがひっ迫することも想定されますが、テレワークであれば無駄に広いオフィスも不要ですし、レンタルオフィスのようなサテライトオフィスであれば、必要な時に必要なだけ利用することも可能なため、起業したての方やどこでも仕事できるビジネスを行っている方にはもってこいの助成金といえるでしょう。すでに導入済の企業でも助成金の対象となるため、今からでも準備して助成金を受け取ることは可能です。
この人材確保等支援助成金(テレワークコース)設立の趣旨は次のように定められています。
中小企業事業主が、在宅又はサテライトオフィスにおいて就業するテレワーク勤務を制度として導入することを目的として就業規則等の作成・変更、テレワーク用通信機器等の導入・運用等を実施し、テレワーク勤務を適切に導入・実施した場合及びテレワーク勤務の導入後も引き続きテレワーク勤務を実施し従業員の離職率の低下について効果をあげた場合に支給するものである。
つまり、在宅ワークやレンタルオフィスなどのサテライトオフィスを活用して仕事を行う環境を構築するにあたってかかる費用を国が助成するというものです。これにより、中小企業でも子育てや介護等で仕事を離職せざるを得ない人をつなぎとめたり、柔軟な雇用実現を目指すことが可能と考えられています。
人材確保等支援助成金(テレワークコース)の受給対象
どのような場合に助成対象となるかというと、以下の取り組みにかかった費用が対象となります。
- 就業規則・労働協約・労使協定の作成・変更(上限11万円)
- 外部専門家によるコンサルティング(上限33万円)
- テレワーク用通信機器等の導入、運用
- 労務管理担当者に対する研修(上限11万円)
- 労働者に対する研修(上限11万円)
この中で、3.のテレワーク用通信機器等の導入、運用に該当する対象の取り組みに関してはさらに細かく規定されています。
- テレワーク用端末レンタル・リース費用(77万円)
- ネットワーク機器(16万5千円)
- サーバ機器(55万円)・NAS機器(11万円)
- セキュリティ機器(33万円)
- ウェブ会議関係機器(1万1千円/対象労働者1人)
- サテライトオフィス利用料(33万円)
- 仮想オフィスに係るサービス利用料
- テレワークに用いるサービス利用料(例:クラウドを用いたコミュニケーションツール等)
※令和6年4月1日の改定では、仮想オフィスに係るサービス利用料、クラウドを用いたコミュニケーションツール、ペーパーレス化ツールの利用料が新たに助成対象に加わりました。
テレワークは基本的に本社となるオフィス以外の自宅やサービスオフィス(カフェ等含む)などで行われるのが基本のため、IT端末や会議に必要なソフト(zoomなど)は必要不可欠です。また、サテライトオフィスも交通費支給と比較してコストダウンできる要因ではありますが、当然無料ではないので、オフィス利用料として33万円の助成があるのは非常にうれしい限りです。
人材確保等支援助成金(テレワークコース)の受給要件
人材確保等支援助成金(テレワークコース)を受給するためには「機器等導入助成」「目標達成助成」の2つの項目においてそれぞれ次の要件を満たす必要があります。
機器等導入助成
1.テレワーク実施計画を作成し、管轄の労働局に提出してその認定を受けること
2.上記の認定を受けたテレワーク実施計画に基づき、実際にその取組を実施すること
3.評価期間(機器等導入助成)におけるテレワーク実施対象労働者のテレワーク実施状況が次の(1)or(2)の基準を満たすこと
(1)評価期間(機器等導入助成)において、1回以上テレワーク実施対象労働者全員がテレワークを実施すること
(2)評価期間(機器等導入助成)にテレワーク実施対象労働者が週平均1回以上テレワークを実施すること
※実施を拡大する事業主は、上記に加えて評価期間(機器等導入助成)の延べテレワーク実施回数を計画提出前3か月と比較し25%以上増加させる必要がある
4.テレワーク実施促進について企業トップ等からのメッセージ発信を行うなど、労働者がテレワークを実施しやすい職場風土作りの取組を行う事業主であること
目標達成助成
1.離職率に係る目標の達成
(1)テレワークに関する制度の整備の結果、評価時離職率が計画時離職率以下であること
(2)評価時離職率が30%以下であること
2.評価期間(機器等導入助成)初日から12か月を経過した日から3か月間に1回以上テレワークを実施した労働者数が、評価期間(機器等導入助成)初日から12か月を経過した日における対象事業所の労働者数に、計画認定時における対象事業所の労働者全体に占めるテレワーク実施対象労働者の割合を掛け合わせた人数以上であること
少々細かく面倒に感じる部分もありますが、購入したソフトやツールの使用、契約した施設の適切な利用が行われれば、それほど難しい要件ではありません。
人材確保等支援助成金(テレワークコース)の受給額
上記の要件を満たした場合、機器等導入助成に関しては支給対象経費の50%が、また目標達成助成は支給対象経費の15%(賃金条件を満たした場合には25%にアップ)が支給されます。令和6年度の改定によって機器等導入助成は30%→50%に引き上げられました。
ただし、いずれも1企業当たり100万円もしくはテレワーク実施対象労働者1人あたり20万円のいずれか低いほうの金額が条件となりますので、事前にシミュレーションしたうえでお得な条件に見合う助成を受けるようにしましょう。
人材確保等支援助成金(テレワークコース)の助成を受けるためには?
人材確保等支援助成金(テレワークコース)の助成を受けるためには次の流れで申請を行います。
ステップ1:テレワーク実施計画の作成・提出
期限までに事業主の主たる事業所の所在地を管轄する都道府県労働局へ実施計画を提出します。その後管轄労働局がテレワーク実施計画を認定します。
ステップ2:認定を受けたテレワーク実施計画に基づきテレワークを可能とする取り組みを実施
認定を受けたテレワーク実施計画に基づき、テレワークを可能とする取組を実施します。 認定日以降、機器等導入助成に関する支給申請日までに取り組みの実施(機器導入の場合は納品)、支払い完了が必要となります。
ステップ3:評価期間(機器等導入)においてテレワークを実施
計画認定日から起算し6か月を経過する日の期間内に、事業主が連続する3か月間を「評価期間(機器等導入助成)」として設定、テレワークを実施します。
ステップ4:機器等導入助成に関する支給申請
テレワーク実施後、計画認定日から起算して7か月以内に管轄労働局へ支給申請書を提出 します。そしてテレワークに関する制度を就業規則等で新たに規定する(またはしている)必要があります。加えて「評価期間(機器等導入助成)」において、テレワーク実績基準を満たしておくことも必要となります。
ステップ5:評価期間(目標達成助成)においてテレワークを実施
「評価期間(機器等導入助成)」の初日より1年を経過した日から起算した3か月間(評価期間(目標達成助成))において、テレワークを実施します。
ステップ6:目標達成助成に関する支給申請
「評価期間(目標達成助成)」の終了日翌日から起算して1か月が経過する日までに、管轄労働局へ支給申請書を提出。その際、離職率目標を満たすことが必要となります。また、「評価期間(目標達成助成)」において、テレワーク実績基準を満たす必要もあります。
以上のステップを踏んだのちに助成金が支給されます。
支給申請書の提出に少々手間がかかりますが、もらっておいて損はない助成金です。気になる方はぜひチャレンジしてみましょう。