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非正規から正社員へ転換した人材の定着を支援する東京都の助成金
東京都正規雇用転換安定化支援助成金とは、パート、契約社員、派遣労働者などの非正規雇用から正規雇用へ転換した従業員が、転換後も安心して働き続けられるように、企業側の育成体制や労働環境の整備を支援するための助成金です。
東京都の公式サイト「TOKYOはたらくネット」では、東京都が、非正規から正規雇用に転換した従業員について、計画的な育成計画の策定、退職金制度、結婚・育児支援制度、介護支援制度などの整備、さらに賃上げを行った企業に対して助成金を交付すると説明されています。なお、令和7年度までは「東京都正規雇用等転換安定化支援助成金」という名称でしたが、令和8年度から「東京都正規雇用転換安定化支援助成金」に名称が変更されています。
この助成金のポイントは、単に「正社員にしたらお金がもらえる」という制度ではないことです。正社員化した後、その人が職場に定着し、長く働き続けられるように、企業側がきちんと育成や制度整備を行うことが求められます。
つまり、目的は「正社員化そのもの」だけではありません。正社員化した後の安定雇用、職場定着、待遇改善まで含めて支援する制度だと考えると分かりやすいです。
国のキャリアアップ助成金と連動する制度
この助成金を理解するうえで重要なのが、国の「キャリアアップ助成金」との関係です。
東京都正規雇用転換安定化支援助成金は、東京都だけで単独に申請する助成金というより、国のキャリアアップ助成金、特に「正社員化コース」の支給決定を受けた企業を対象にした、東京都独自の上乗せ・定着支援型の助成金と考えると分かりやすいです。
公式ページでも、対象となる事業主の要件として、東京労働局管内に雇用保険適用事業所があること、令和5年4月1日以降に対象労働者を転換等し、東京労働局長がキャリアアップ助成金・正社員化コースの交付決定をしていることが挙げられています。
そのため、東京都の助成金だけを先に考えるのではなく、まず国のキャリアアップ助成金の正社員化コースで対象になるかどうかを確認する必要があります。
たとえば、有期契約社員を正社員へ転換した、派遣労働者を直接雇用した、パート従業員を正社員化した、というケースであっても、国のキャリアアップ助成金の要件を満たし、支給決定を受けていなければ、この東京都の助成金の対象にならない可能性があります。
ここを誤解すると、「正社員にしたのだから東京都にも申請できるはず」と考えてしまいがちですが、実際には順番が重要です。国のキャリアアップ助成金の正社員化コースが先にあり、その支給決定を受けた後に、東京都の助成金の申請を検討する流れになります。
対象となる事業主
対象となるのは、一定の要件を満たす中小企業等です。
公式ページでは、主な要件として、東京労働局管内に雇用保険適用事業所があること、令和5年4月1日以降に対象労働者を転換等し、東京労働局長からキャリアアップ助成金・正社員化コースの交付決定を受けていることが示されています。
また、制度の性質上、単に形式的に正社員化すればよいというものではありません。労働関係法令を守っていること、税金の未納がないこと、重大な法令違反がないことなど、事業主としての適正性も確認されます。
助成金は公的資金であるため、東京都としても「正社員化した」という一点だけではなく、その企業が継続的に雇用を守れる状態にあるか、労務管理上の問題がないかを見ています。
特に注意したいのは、助成金申請では書類上の整合性が非常に重要になることです。雇用保険適用事業所、登記上の所在地、実際の勤務場所、対象労働者の雇用区分、転換日、支援期間などが食い違っていると、確認や追加資料が必要になる可能性があります。
対象となる労働者
対象労働者についても、いくつかの条件があります。
公式ページでは、キャリアアップ助成金・正社員化コースの交付対象となった労働者であること、令和5年4月1日以降に都内事務所において転換等された労働者であること、転換時から支援期間終了日まで同一事業主との間で転換または直接雇用後の雇用区分が継続していること、都内で継続して勤務していること、さらに支援期間終了日に有期雇用労働者ではないことが挙げられています。
簡単に言えば、「東京都内の事業所で非正規から正規雇用に転換され、国のキャリアアップ助成金の対象にもなった人」が中心です。
ただし、対象になりそうに見えても、過去に同じ労働者で東京都の同種助成金を受けている場合や、支援期間の途中で雇用区分が変わった場合、都内勤務が継続していない場合などは注意が必要です。
助成金では、対象労働者を誰にするかが非常に重要です。対象者を誤ると、その後の育成計画、メンター指導、研修実施、賃上げ加算などにも影響するため、申請前に要件を丁寧に確認する必要があります。
支援期間中に行うべき取り組み
この助成金では、対象労働者に対して、支援期間3か月の間に一定の支援事業を行う必要があります。
公式ページでは、支援期間中に行う取り組みとして、3年間の指導育成計画の策定、指導育成者であるメンターの選任およびメンターによる3回・3日以上の指導、指導育成計画に基づく研修の実施が挙げられています。
ここが、この助成金の最も重要な部分です。
正社員化した後、対象労働者を放置するのではなく、今後どのように育てていくのかを計画し、実際に指導し、研修も行う必要があります。つまり、東京都は「正社員にした」という事実だけでなく、「正社員として定着できるように企業が支援したか」を見ているわけです。
たとえば、対象労働者について、今後3年間でどのような業務を覚えてもらうのか、どのようなスキルを身につけてもらうのか、どのような役割を期待するのかを明確にする必要があります。
また、メンターによる指導も、単に「声をかけた」程度ではなく、実施日や内容を記録できる形で行う必要があります。研修についても、業務に必要な知識やスキルを身につけるための内容として、実態のあるものにすることが大切です。
助成金額はいくらか
基本の助成額は、対象労働者1人あたり20万円です。
公式ページでは、対象労働者数に応じて、1人20万円、2人40万円、3人60万円、4人80万円、5人100万円とされています。令和8年度は、1年度につき1雇用保険適用事業所5人までが限度で、交付上限額は1年度につき1雇用保険適用事業所100万円です。
つまり、基本部分だけを見ると、最大100万円です。
ただし、この助成金には加算制度があります。退職金制度整備加算、結婚・育児支援制度整備加算、介護支援制度整備加算、賃上げ加算です。
退職金制度整備加算は、支援期間中に新たに退職金制度を整備し、就業規則を労働基準監督署へ届け出た場合、または新たに中退共制度に事業主として加入した場合に、10万円が加算されます。結婚・育児支援制度整備加算は、結婚、妊娠・出産、育児に関する休暇や一時金制度を新たに整備し、就業規則等を労働基準監督署へ届け出た場合に10万円が加算されます。介護支援制度整備加算は、介護に関する休暇制度を新たに整備し、就業規則等を届け出た場合に10万円が加算されます。
さらに、賃上げ加算もあります。支援期間中に対象労働者の時間単価を60円以上賃上げした場合、1人12万円、2人24万円、3人36万円、4人48万円、5人60万円が加算されます。ただし、賃上げ後の時間当たり賃金額が東京都の最低賃金を60円以上上回っていることが必要です。
そのため、基本助成額100万円に、制度整備加算3種類で最大30万円、賃上げ加算で最大60万円を加えると、最大190万円になる設計です。
申請時期と手続きの流れ
令和8年度の申請受付は、第1回から第6回まで設定されており、各回ごとに交付申請受付期間、支援期間、実績報告受付期間が定められています。公式ページでは、第1回の受付が令和8年5月1日から開始されること、また、東京労働局長からキャリアアップ助成金・正社員化コースの交付決定通知書を受理した後、交付申請受付期間内に申請することが案内されています。
ここで注意したいのは、申請して終わりではないということです。
まず、交付申請を行います。その後、支援期間中に対象労働者への育成計画作成、メンター指導、研修実施、必要に応じた制度整備や賃上げを行います。そして支援期間終了後、実績報告を提出します。
各回に設定されている支援期間に取り組みを実施できない場合や、実績報告受付期間に実績報告を提出しない場合は、助成金の交付を受けられません。公式ページでもこの点が明記されています。
また、予算の範囲を超えた場合は、年度途中であっても申請受付が終了することがあります。そのため、申請を検討する場合は、必ずTOKYOはたらくネットで最新情報を確認する必要があります。
申請方法は電子申請または郵送・窓口
申請方法には、電子申請と郵送申請があります。
電子申請を行う場合は、Jグランツを利用するため、GビズIDプライムのアカウントが必要です。公式ページでは、gBizIDプライムの取得には審査があり、ID発行まで時間がかかるため、余裕をもって準備するよう案内されています。
一方、郵送申請の場合は、書類をすべて整えたうえで、原則として郵送で提出します。郵送では送達記録が残るレターパック等の方法が求められており、メール便や宅配便など、信書の送付が禁止されている方法は使用できません。また、FAXやメールでの申請受付、問い合わせ、書類受理には対応していません。
さらに注意すべきなのは、交付申請書を電子申請で提出した場合、その後の実績報告書、撤回届、中止申請書、再提出書類も電子申請で提出する必要があることです。逆に、郵送または窓口で交付申請書を提出した場合、その後の実績報告書等を電子申請で提出することはできません。
つまり、最初にどの申請方法を選ぶかが、その後の手続きにも影響します。
実務上の注意点
この助成金で失敗しやすいのは、「正社員化したから申請できる」と単純に考えてしまうことです。
実際には、国のキャリアアップ助成金の支給決定、東京都の受付期間、支援期間、育成計画、メンター指導、研修、制度整備、実績報告という流れを正しく管理する必要があります。
特に重要なのは、支援期間中に何を行うかです。対象労働者ごとに育成計画を作成し、メンター指導を実施し、研修を行う必要があります。実績報告時には、実績報告書のほか、指導育成計画書、メンター選任・指導報告書、研修実施報告書などの様式が用意されています。
また、加算を狙う場合は、就業規則の整備や労働基準監督署への届出、賃金支払実績の確認なども必要になります。制度整備加算は「制度を作ったつもり」では足りず、就業規則等への反映や届出が重要です。
そのため、社内だけで進める場合でも、労務担当者、経理担当者、現場責任者、対象労働者の上司が連携して進める必要があります。社労士に依頼する場合でも、丸投げではなく、対象者の勤務実態や指導内容を社内で整理しておくことが大切です。
まとめ
東京都正規雇用転換安定化支援助成金は、非正規雇用から正規雇用へ転換した人材を、企業内で定着させるための支援制度です。
基本助成額は対象労働者1人あたり20万円で、令和8年度は1年度につき1雇用保険適用事業所5人まで、基本部分の上限は100万円です。さらに、退職金制度、結婚・育児支援制度、介護支援制度、賃上げなどの取り組みによって加算を受けられる可能性があります。
ただし、この助成金は、単に正社員化しただけで簡単にもらえるものではありません。
国のキャリアアップ助成金・正社員化コースの支給決定を受けていること、東京都の受付期間内に申請すること、3か月の支援期間中に育成計画、メンター指導、研修を実施すること、実績報告を期限内に行うことが重要です。
正社員化はゴールではなく、その後の定着こそが大切です。東京都正規雇用転換安定化支援助成金は、まさにその「正社員化した後」を支える制度だといえます。申請を検討する企業は、まずTOKYOはたらくネットで最新版の手引きと様式を確認し、自社の対象者、申請時期、支援期間、必要書類を早めに整理しておくことが重要です。










