小規模企業共済制度とは、経営者が退職金代わりに加入することの多い制度です。この制度を上手く活用することで、1年間に支払った掛金を全額控除にすることができ、所得を押さえて節税できるといったメリットがあります。
今回は、節税対策としてぜひ利用したい小規模企業共済制度について見ていくこととします。
目次
小規模企業共済制度とは?
国の機関である独立行政法人中小企業基盤整備機構(中小機構)が運営している「小規模企業共済制度」は、小規模事業経営者やその役員、個人事業主などが利用することの多い積み立てによる退職金制度を言います。2022年現在では全国で約159万人の方が加入しています(2022年3月データ参照)。
小規模企業共済への加入資格
小規模企業共済制度は、次のいずれかに該当する場合にのみ加入することができます。しかし、配偶者等の事業専従者、学業を本業とする全日制高校生、生命保険外務員などは加入することができないので注意が必要です。
(1) 建設業、製造業、運輸業、サービス業(宿泊業・娯楽業に限る)、不動産業、農業などを営む場合は、常時使用する従業員の数が20人以下の個人事業主または会社等の役員
(2) 商業(卸売業・小売業)、サービス業(宿泊業・娯楽業を除く)を営む場合は、常時使用する従業員の数が5人以下の個人事業主または会社等の役員
(3) 事業に従事する組合員の数が20人以下の企業組合の役員、常時使用する従業員の数が20人以下の協業組合の役員
(4) 常時使用する従業員の数が20人以下であって、農業の経営を主として行っている農事組合法人の役員
(5) 常時使用する従業員の数が5人以下の弁護士法人、税理士法人等の士業法人の社員
小規模企業共済がお得である4つのポイント
小規模企業共済がお得であると言われる理由には4つ大きなものがあります。それぞれを詳しく見ていきましょう。
その1:掛金は加入後も増減できる
小規模企業共済の月々の掛金は1,000~70,000円まで500円単位で自由に設定ができ、加入後も増額・減額できます。そのため、資金に余裕があるときは手厚く、資金に余裕のない時には少なめにといった調整が可能です。一時期的に支払いをストップすることもできます。
その2:全額が所得控除できる
小規模企業共済制度は、確定申告の際、全額を課税対象所得から控除できるため、高い節税効果があります。所得が高額であればあるほど節税効果が期待できます。たとえば、課税所得金額が200万円の場合、掛金月額が最高の7万円であれば、129,400円の節税ができます。
課税される 所得金額 |
加入前の税額 | 掛金月額ごとの加入後の節税額 | ||||
所得税 | 住民税 | 掛金月額 1万円 |
掛金月額 3万円 |
掛金月額 5万円 |
掛金月額 7万円 |
|
200万円 | 104,600円 | 205,000円 | 20,700円 | 56,900円 | 93,200円 | 129,400円 |
400万円 | 380,300円 | 405,000円 | 36,500円 | 109,500円 | 182,500円 | 241,300円 |
600万円 | 788,700円 | 605,000円 | 36,500円 | 109,500円 | 182,500円 | 255,600円 |
800万円 | 1,229,200円 | 805,000円 | 40,100円 | 120,500円 | 200,900円 | 281,200円 |
1,000万円 | 1,801,000円 | 1,005,000円 | 52,400円 | 157,300円 | 262,200円 | 367,000円 |
その3:共済金の受取は一括または分割どちらでも可能
共済金は、退職または廃業時に受け取ることが可能です。満期や満額という概念は小規模企業共済にはありません。また、共済金の受け取り方は「一括」「分割」「一括と分割の併用」できます。その際、一括での受け取りの場合は退職所得扱いとなり、分割受け取りの場合は公的年金等の雑所得扱いとなるなどのメリットがあります。
その4:低金利の貸付制度が利用可能
小規模企業共済の加入者は、掛金の範囲内において事業資金の貸付制度を低金利で利用できます。この時、即日貸付けも可能です。以下のようなさまざまな種類の貸付がありますので、確認しておくと良いでしょう。
- 一般貸付け
- 緊急経営安定貸付け
- 傷病災害時貸付け
- 福祉対応貸付け
- 創業転業時・新規事業展開等貸付け
- 事業承継貸付け
- 廃業準備貸付け
小規模企業共済のデメリット
以上のように、節税効果が高いことや貸付制度も豊富な小規模企業共済制度ではあるものの、いくつかのデメリットもあります。その点を踏まえて加入を考える際の参考にしておきましょう。
その1:納付期間が12カ月未満の場合掛捨てとなる
小規模企業共済は、退職、廃業、法人の解散、または解約した場合に受け取ることができるものですが、掛金納付期間が12カ月未満の場合は、任意解約時に受け取れる解約手当金を受け取ることができずに掛け捨てとなってしまいます。
しかし、災害など契約者の責任によるものではないやむを得ない理由よって生じた掛金の滞納等ついては、共済契約を継続することはできます。
その2:加入期間が20年未満は元本割れする
小規模企業共済の掛金納付月数が、240ヵ月(20年)未満で任意解約をした場合は、掛金合計額を下回ってしまい、元本割れを引き起こしてしまいます。また加入期間が240ヵ月以上であっても、途中に掛金を減額したりした場合に掛金区分ごとの掛金納付月数が240ヵ月を下回っている場合には、任意解約時に受け取れる解約手当金は掛金合計額を下回ってしまうことがあります。つまり、20年以上加入していなければ、マイナスになってしまうこともあるため、加入する際には十分に検討する必要があります。
その3:受取時に課税されてしまう
小規模企業共済積立時の掛金については、全額控除にできることから節税には大いに役立ちますが、受取の際には退職所得または雑所得として課税されてしまいます。受け取り時にまとめて課税されるので税金の負担は大きくなりますが、事業所得課税よりは税金の負担が少なくなります。とはいえ、課税の先送りとも言える小規模企業共済であるため、のちのちには課税されるという点を覚えておきましょう。
受取時の課税額ですが「(退職金-控除額)×1/2」が所得となり、この所得に応じた納税額が計算されることとなります。
小規模企業共済加入の手続き
小規模企業共済への加入するための手続きですが、加入する方の現在の状況によっても手続き方法が異なります。加入手続きは、中小企業基盤整備機構(中小機構)が業務委託契約締結している団体や金融機関窓口で行なうことができます。
個人事業主の場合には、確定申告書の控え(税務署受付印があるものやe-taxの受付確認メールの詳細など)が必要となります。
また法人(株式会社など)の役員の場合は、履歴事項全部証明書(商業・法人登記簿謄本、交付後3か月以内の原本が必要)などに役員登記がされていることが確認できる書類が必要となります。
まとめ
以上、節税対策に効果的と言われる小規模企業共済制度について紹介してきました。
節税メリットがある小規模企業共済制度ではあるものの、デメリットがある点も知っておかなければ将来的に損をしてしまう点は注意が必要です。納付期間が12カ月未満の場合には掛捨てになってしまうことや、小規模企業共済加入期間が20年未満の場合には元本割れとなってしまう(事業所得課税よりは税金の負担は少ない)点を踏まえて、十分検討してから加入することをおすすめしたいと思います。