ベストプラクティスとは?

ビジネスの現場で「ベストプラクティス」という言葉を耳にする機会がここ最近増えています。直訳すると「最良の実践」となりますが、ベストプラクティスは単に優れた方法というだけでなく、特定の課題や目標に対して最も効果的かつ効率的とされる手法やプロセスを指します。
本記事では、ビジネスにおけるベストプラクティスについて詳しく解説していきます。

ベストプラクティスとは?

ビジネスでのベストプラクティスとは、同じ目的を達成するために、過去の成功例や実績に基づいて最も効果的だとされる方法や手法のことを言います。要するに、ある課題に取り組む際、すでに他者が試して効果を上げているやり方を取り入れることで失敗のリスクを減らしながら、より効率的かつ成果につながるアプローチを採用しようとする考えです。

たとえば、企業が新しくプロジェクトマネジメントを導入しようとした場合、独自の方法をゼロから考え出すよりも、他社で成果を上げているPMBOKに基づいた手法をベースに運用するほうがスムーズに結果を出しやすいとされます。

その際注意すべきなのは、ベストプラクティスは唯一の正解ではないことです。当然ながら業種や組織文化、事業規模、目的によって有効な手法は異なるため、あくまで「その時点で多くの実績がある優れた手法」と認識し、自社にそのまま当てはめるのではなく、状況に応じて柔軟にカスタマイズすることが重要となります。

ベストプラクティスと似た意味の言葉

ベストプラクティスと似たような意味の言葉には次のようなものがあります。

よく比較されるのが「スタンダード」という言葉です。これは業界や企業内で「こうすべき」とされる基本的な基準やルールを意味します。ベストプラクティスが最良のやり方であるのに対し、スタンダードは最低限守るべきやり方といった意味合いで使われることが多く必ずしも最善とは限りません。

たとえば、製造業におけるISOなどの品質管理基準は、業界全体の基準であり必ずしも企業ごとの最適解ではない場合もあります。

また「ナレッジ」も似た意味を持つ言葉です。これは業務の中で蓄積された経験や知識の集合体を指しますが、体系化されていなかったり整理されていないこともあります。一方でベストプラクティスは、そのようなナレッジの中から特に成果が出た手法を選んで再現可能な形にしたものです。

ほかにも、「成功事例」や「ケーススタディ」といった言葉が近い文脈で使われますが、特定の企業やプロジェクトにおいてベストプラクティスは過去に成功した実績がある方法であるものの、それを無批判に受け入れてしまうと自社特有の課題や環境の違いを見落とすリスクが高まってしまいます。

業界によって異なるベストプラクティス

ベストプラクティスの概念は業界によってもそれぞれ異なります。ここでは、いくつかの業界別のベストプラクティスについてそれぞれの特徴や背景についても触れておきます。

IT業界

IT業界におけるベストプラクティスとしては、アジャイル開発やDevOpsが代表的です。
たとえばアジャイル開発では、ウォーターフォール型の一括開発ではなく、短期間で設計・開発・テストを繰り返すことで、顧客ニーズに柔軟に対応できる仕組みを重視しています。また、DevOpsは開発と運用の連携を密にすることで、継続的デリバリー(CI/CD)を実現し、サービスの品質と速度を両立させます。

製造業

製造業のベストプラクティスとして有名なのは、トヨタ生産方式(TPS)でしょう。「ジャスト・イン・タイム」や「カイゼン」、「ムダの排除」などの考え方が生産性向上に貢献し、多くの国や企業、業界にまで影響を与えました。

小売業

小売業におけるベストプラクティスですが、在庫最適化やPOSデータの活用などが該当します。たとえばコンビニエンスストア業界では、POSデータをもとに時間帯や曜日ごとの需要を予測し、無駄な在庫を抱えずに売上最大化を図る仕組みが確立されていますし、棚割り(商品配置)やプロモーションの効果測定もデータドリブンで行われるのが標準です。

医療・ヘルスケア業界

医療・ヘルスケア業界の場合には、「EBM(Evidence-Based Medicine:根拠に基づく医療)」といったものがベストプラクティスにあたります。EBMは経験や直感だけでなく、科学的根拠に基づいて診断や治療方針を立てる手法であり、医療の質と安全性を高める取り組みとされています。また、電子カルテの標準化やチーム医療の導入などもベストプラクティスとして世界各国で採用が進んでいます。

教育業界

教育業界では、反転授業やアクティブラーニングが注目されています。従来の「授業で教え、自宅で復習」という形ではなく、「事前に学び、授業で深掘りや議論を行う」というスタイルが、主体的な学びを促すとして多くの教育現場に取り入れられています。また、ルーブリック(評価基準)の導入も学習成果を可視化する手段として効果的とされています。

ベストプラクティス導入のデメリット

一見するとメリットが多そうなベストプラクティス導入ですが、一方ではデメリットも存在します。

最も大きなデメリットは、思考停止に陥りやすいという点が挙げられます。ベストプラクティスは過去の成功実績に基づくものですが、無批判に受け入れると自社特有の課題や環境の違いを見落とすリスクがあります。本来なら状況に応じて工夫や調整が必要な場面であっても、なんとなく「これが正解だ」と思い込んでしまい、思考の柔軟性を失う恐れがある点に注意しなければなりません。

また、ベストプラクティスはあくまで過去の成功例に基づいていますので、変化の激しい市場環境や技術革新のスピードについていけず、時代遅れになってしまう可能性もあり得ます。特に競争の激しい業界では、他社と同じことをしているだけでは差別化にならず、競争力を失う要因になりかねません。

さらに、ベストプラクティスを導入する際には、現場から反発が起きる可能性もあります。外部の成功例をそのまま押し付ける形になると、現場の知恵や経験が軽視されたように感じられるためです。その結果、モチベーションの低下や形だけの導入に終わるリスクも生じます。

自社における最適なベストプラクティスとは?

自社におけるベストプラクティスを見出すには、現場の中に成果を上げているチームや効率的な業務プロセスを発見し、なぜそれがうまくいっているのかを分析する必要があります。そして、成功している要因を抽出し、形式知として他の部署やメンバーにも展開できるように整備していくことで、会社全体の底上げにつなげていきます。

ただし、外部環境の変化や顧客ニーズの推移、社内のメンバー構成が変われば、これまで有効だった手法が機能しなくなることも当然あり得ます。そのため、自社のベストプラクティスは一度作ったら終わりではなく、定期的な見直しと更新が必要です。

まとめ

ベストプラクティスは、適切に選び、活用し、必要に応じて進化させなければ、単なる成功例の模倣で終わってしまうリスクがあります。だからこそ、ベストプラクティスを盲目的に導入するのではなく、自社にとっての本当の最適解を考えながら活用することが大事です。

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