通訳・翻訳者として起業する方法

語学スキルの高い人にとって、通訳や翻訳者として活動することは魅力的なキャリアのひとつです。特に訪日外国人観光客の増加に伴い、通訳の需要は増加傾向にあり、今後もそのニーズは多くありそうです。

通訳と翻訳では必要となるスキルが異なりますが、いずれも語学のエキスパートとして高いスキルが求められます。最近では、生成AIの台頭によって「通訳や翻訳者が不要になるのでは?」と一部で懸念されていますが、生身の人間にしかできない技術や対応力を駆使して活躍できる場は確実に存在しています。

こうした背景の中で、通訳や翻訳者として独立起業することを目指すのは大いに意義があると言えるでしょう。本記事では、通訳・翻訳者として起業するために必要な準備や具体的な方法について詳しく見ていきます。

通訳とは?

通訳とは、異なる言語を話す人々の間でコミュニケーションを円滑にするために、口頭または手話を用いて情報を伝達する専門職を指します。話された内容を即座に別の言語に変換し、相手に正確に伝えることで、言語の壁を取り除きます。これにより、異なる文化や背景を持つ人々が理解し合い、効果的な交流を行えるようになります。

通訳者には、高度な語学力が必須であるだけでなく、特定の分野に関する専門知識も求められます。さらに、話の内容を瞬時に把握し、適切な表現を選ぶ判断力、そして異なる文化や慣習への深い理解が必要です。これらのスキルを活かして、通訳者は国際会議、ビジネス交渉、医療現場、司法の場、観光業など、さまざまな分野で活躍する機会を得られます。

通訳は単なる言語の翻訳ではなく、言語を超えた橋渡しをする役割を果たします。そのため、コミュニケーション能力や柔軟性、そして相手の意図を正確に汲み取る力も重要です。

通訳の種類

通訳には主に2つの種類があります。それぞれの通訳方法には特徴があり、場面や目的に応じて使い分けられます。

同時通訳

同時通訳は、話者が話しているのとほぼ同時に通訳を行う方法です。通訳者は話者の言葉を聞きながら、わずかな遅れで別の言語に訳していきます。この方法は、国際会議や大型イベント、セミナーなど、リアルタイムでのコミュニケーションが求められる場面で使用されます。同時通訳には高度なリスニング力とスピーキング力、そして瞬時に情報を処理する集中力が求められます。通訳ブースや専用機器を使って行うことが一般的です。

逐次通訳

逐次通訳は、話者が一定の区切りで話を止め、その後に通訳者が訳す方法です。通訳者は話者の発言を記憶またはメモに取り、それを基に通訳を行います。この方法は、ビジネス交渉、インタビュー、少人数の会議など、より詳細で正確な情報交換が求められる場面で使用されます。逐次通訳では、話の流れを整理して伝える能力や、正確な表現を選ぶ力が特に重要です。

 

これらの通訳形式は、それぞれ異なる場面で求められるスキルが異なります。同時通訳はスピードと即応力が重視される一方、逐次通訳では深い理解力と記憶力が求められます。通訳者として活躍するには、自分の得意な形式を磨くとともに、必要に応じて両方の形式に対応できるスキルを習得することが重要です。

翻訳者とは?

翻訳者とは、特定の言語で書かれた文章や内容を、別の言語に置き換えて伝える専門職のことを指します。翻訳者の役割は、原文の意味やニュアンス、文体を忠実に再現しながら、目的言語に適した表現に変換することです。これにより、異なる言語を話す人々が情報や文学作品、技術資料などを理解し、文化や知識を共有することが可能になります。

翻訳の対象は多岐にわたり、文学、ビジネス、法律、医療、技術分野など、それぞれの分野に特化した知識や専門用語の理解が求められます。そのため、翻訳者は高い言語能力だけでなく、翻訳する分野における専門知識や文化的背景、慣習への深い理解が必要です。

翻訳は単に言葉を置き換える作業ではありません。原文に込められた意図や感情、微妙なニュアンスを正確に伝える力が求められます。特に文学翻訳では、物語の雰囲気や登場人物の性格を正確に表現することが求められ、一方で技術翻訳や法律翻訳では、専門的な用語の正確さが重視されます。

現代のグローバル化が進む中で、翻訳者の重要性はますます高まっています。企業の海外進出や国際交流の増加に伴い、翻訳者が手掛ける正確な翻訳は、異なる文化や言語の間の架け橋となり、相互理解と協力を促進する役割を果たしています。翻訳者の仕事は、言語を超えたコミュニケーションを可能にし、多様な社会の中で人々がつながるために不可欠な職業です。

翻訳の種類

翻訳は対象とするメディアや用途によって大きく3つの種類に分類され、それぞれ異なるスキルと専門性が求められます。

出版翻訳

出版翻訳は、海外の書籍や雑誌、電子書籍などの出版物を別の言語に翻訳する作業を指します。この分野には、小説や詩、エッセイ、学術書、児童書、漫画など、多岐にわたるジャンルの作品が含まれます。出版翻訳では、文化的背景や読者の嗜好を考慮しながら、原文の意図やニュアンスを正確に再現することが重要です。特に国が異なれば文化も異なるため、翻訳後の内容が原本とは多少異なる形で出版されることもあります。作品の魅力を損なわず、翻訳先の読者にも自然に伝わる表現力が求められます。

映像翻訳

映像翻訳は、映画やテレビ番組、ドキュメンタリー、アニメーションなどの映像作品を別の言語に翻訳することを指します。この分野の翻訳者は、元の音声やセリフを視聴者が理解できる言語に変換し、作品の内容やメッセージを正確に伝える役割を果たします。
映像翻訳にはさらに「字幕翻訳」「吹き替え翻訳」「音声ガイド翻訳」といった細分化された分野があります。

字幕翻訳

限られた文字数と表示時間内で情報を的確に伝える技術が求められます。視覚的に分かりやすく、かつ簡潔で自然な表現が重要です。

吹き替え翻訳

セリフを視聴者が自然に感じられる現代的な話し言葉に変換する作業です。吹き替えのタイミングやキャラクター性に合わせた調整が必要です。

音声ガイド翻訳

視覚障害者向けに映像の内容を説明するナレーションを作成します。場面の描写やキャラクターの動きを的確に伝える表現力が求められます。

実務翻訳

実務翻訳とは、企業や組織が必要とするビジネス文書や技術資料を翻訳する分野です。契約書、仕様書、報告書、マニュアル、マーケティング資料などが対象となります。この分野では、正確さと専門用語の理解が何よりも重要です。誤訳が生じると大きな損失や誤解を生む可能性があるため、注意深い作業が求められます。また、翻訳された文書が読みやすく、論理的であることも重視されます。

通訳・翻訳者として起業するのに必要な資格

通訳や翻訳者は資格がなくてもなることができますが、資格を取得することで自分のスキルを証明し、クライアントに信頼されやすくなります。特に通訳の場合には「全国通訳案内士」や「ビジネス通訳検定」といった資格試験を受験し合格することで、通訳としての箔をつけることができます。また、翻訳者に関しては、「JTA公認翻訳専門職資格基礎試験」や「JTFほんやく検定」などを受験しておくことも手段のひとつです。

英語力のアピールには「英検」や「TOEIC」が鉄板

これらの資格試験は英語をベースとしているものですが、英語力を証明する手段としては「英検1級」や「TOEIC900点以上」を取得していると、通訳・翻訳者として起業するにあたり十分なスキルを持つと見なされます。ただし、英語を扱う通訳や翻訳者を目指している人の多くは、このレベルの資格を持っているのが当たり前である場合も多く、差別化を図るにはそれだけでは弱いことがあります。そのため、特定の分野に強い点をアピールできなければ、新規案件の獲得や継続的な案件受注は難しい場合があるでしょう。
資格を取得することはスキルの証明として有効ですが、同時に実務経験や専門知識の強化も大切です。

通訳・翻訳者としての収入

株式会社カカクコムが運営する「求人ボックス」によると、通訳の正社員としての平均年収は416万円、翻訳者の平均年収は471万円とされています。この数字を基準に、自分がその年収を超える収入を得られる自信があるならば、独立して自分の力でやっていくことを検討する価値があるでしょう。

通訳や翻訳者として収入を得るためには、案件を獲得する仕組みを確立する必要があります。その方法にはいくつかの選択肢があります。まず、通訳エージェントや翻訳会社に登録することで、一定の案件を安定的に受けられるようになる場合があります。また、クラウドソーシングサイトに登録することで、企業や個人から直接仕事を受注することも可能です。さらに、企業から直接業務委託を受ける、または過去のクライアントや知人から紹介をもらうことで新しい案件を増やす方法もあります。

近年では、SNSやブログ、YouTubeなどのプラットフォームを活用して情報発信を行い、自分のスキルをPRすることで案件を獲得する人も増えています。これらの方法は、知名度を高め、信頼を築くことで仕事に繋がる可能性を広げる効果があります。したがって、通訳や翻訳のスキルだけでなく、PR力やマーケティング力を磨くことが重要です。こうしたスキルを高めることで、より高い収入を得られるようになるでしょう。

また、通訳や翻訳の仕事は個人事業主的なイメージが強いですが、案件の受注が安定してきたら同じ志を持つメンバーを引き入れ、チームとして業務を進める方法もあります。チームで対応できる体制を整えると、より大規模な案件を受注することが可能となり、収入アップに繋がります。たとえば、翻訳プロジェクトで大量の文書を効率よく処理したり、大型の国際イベントで複数の通訳者が必要な案件に対応したりすることが可能になります。

収入を安定させ、さらに成長させるためには、自分のスキルを磨き続けると同時に、マーケティングやビジネスの側面にも注力することが大切です。

まとめ

通訳と翻訳は、一見似ているように思われますが、実際には求められるスキルセットや役割が大きく異なる職業です。通訳はリアルタイムでの口頭コミュニケーションを円滑にすることを目的としており、高度なリスニング力や瞬発的な表現力が必要です。一方で、翻訳は書かれた情報を正確かつ効果的に別の言語で伝える作業であり、文章力や深い読解力が求められます。

したがって、語学力に自信があるだけでは不十分で、どちらの特性に適性があるのかを見極めたうえで取り組む必要があります。そうでなければ、「思っていたのとは違う仕事だった」という事態に陥る可能性もあります。

また、通訳・翻訳者として独立して生計を立てるためには、厳しいスケジュールやコストの管理、時には自分の実力以上の案件に挑まざるを得ない状況に対しても、必死で耐え抜く覚悟が必要です。これらの試練を乗り越えることで、少しずつ実績と信頼を積み上げていくことが重要です。

この職業は、経験がものをいう世界でもあります。そのため、実力があれば高齢になっても続けることが可能な一方で、実力不足の場合は仕事が途切れ、廃業に追い込まれるリスクもある厳しい競争社会です。通訳・翻訳者として独立起業を目指す際には、安易な気持ちではなく、強い覚悟と明確な目標を持って臨む必要があります。

しかしながら、スキルと経験を積み重ねることで、この分野での活躍の場は広がり、高い収入ややりがいを得ることができます。語学力を武器に、挑戦と努力を続けながら自分の道を切り開いていくことが、成功への鍵となるでしょう。

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