個人事業主が事業をスタートさせた時に所轄の税務署に提出する必要のある「開業届」。
正式名を「個人事業の開業・廃業等届出書」というこの書類は、事業開始した方であれば提出する義務のあるものですが、中には提出していない人もいるのではないでしょうか。
仮に提出しなくてもペナルティはありませんが、青色申告で確定申告を行う人であれば必ず提出が必要です。
本記事では個人事業主が知っておきたい開業届の詳細について見ていきます。
目次
開業届とは?
日本では、開業届を提出することで事業開始が正式に国に認識され、所得税の申告や青色申告承認申請などの手続きも進めることが可能となります。
国税庁の公式サイト「個人事業の開業届出・廃業届出等手続」では、新たに事業所得、不動産所得又は山林所得を生ずべき事業の開始等をした方が開業届手続きの対象者であると記載されています。
提出時期は、事業の開始等の事実があった日から1か月以内、なお提出期限が土・日曜日・祝日等に当たる場合は、これらの日の翌日が期限となります。
開業届の役割
開業届には次のような役割があるとされています。
事業の開始を税務署に通知することとなる
個人事業主が開業届に事業開始の日を記載して税務署に提出すると、正式な事業者として登録されます。
青色申告の承認を受けることが可能
個人事業主は、開業届を提出しないと節税効果を受けられる青色申告ができません。
各種手続きや融資の際の証明書類として利用可能
開業届は、銀行融資や取引先との契約の際に事業者であることを証明するための書類として利用することができます。
屋号を使って銀行口座開設が可能
開業届を出すことで、屋号を使い銀行口座を開設することもできます。
開業届に記載する主な内容
開業届に記載する内容には主に次のようなものがあります。
開業届は「個人事業の開業・廃業等届出書」ですが、開業届と廃業届共通の用紙となっています。開業届として使用する場合には、廃業の部分を2本線で消して提出します。
氏名・住所
事業を開始する個人事業主または法人の代表者の氏名と住所を記載します。
生年月日・個人番号(マイナンバー)
個人事業主の場合、生年月日と個人番号(マイナンバー)を記載します。
職業
自分が行っていく事業内容を簡潔に記載します。たとえば「飲食業」「ITサービス業」「建設業」などを記載します。
屋号
事業に使う名前(屋号)を記載します。屋号は任意であるものの、すでに決定しているのであれば記載が必要です。
事業所の所在地
事業を行う場所の住所を記載します。自宅で事業を行う場合は、自宅住所を記載します。レンタルオフィス、バーチャルオフィスなどを利用している方は、施設の住所を記載します。
事業の開始日
事業を開始した日、または開始予定日を記載します。ここで記載した日付は正式に事業が始まる日として会計上や税務上の基準になります。
所得の種類
事業所得、農業所得、不動産所得など所得の種類を選択しますが、一般的に個人事業主として事業スタートする場合には「事業所得」を選択することとなります。
開業・廃業等の区分
「開業」「廃業」など、事業の開始や終了を区別して記載します。通常開業時は「開業」にチェックを入れます。
給与等の支払状況といった従業員に関する事項
従業員がいる場合はその人数を記載しますが、自分一人で従業員がいない場合は「0」と記載します。なお、従業員に対して給与を支払う必要がある場合には、「給与支払事務所等の開設・移転・廃止届出書」の提出が必要となります。こちらも提出期限は1か月以内とされています。
青色申告承認申請書の提出状況
青色申告を希望する場合、承認申請書の提出について記載します。青色申告は最大65万円の節税効果があるため、青色申告を行うのが賢明です。
そのほか、必要に応じて納税地や控除額の記載が求められる場合があります。
開業届の提出方法
開業届は、次のいずれかの方法で提出できます。
税務署に直接持参
開業届は最寄りの税務署に直接出向き窓口で提出することが可能です。
身分証明書の確認を求められることがありますので、運転免許証やマイナンバーカード等を持参しておくと安心です。
税務署窓口での受付の場合、基本的に平日8:30~17:00の間での提出が可能です。しかし、土・日・祝日はお休みとなります。
郵送
また、開業届は郵送で送付することも可能です。
この場合、控えが必要な場合には返信用封筒(切手を貼付)を同封しましょう。
e-Taxによるオンライン提出
国税庁のe-Taxを利用し、オンラインで開業届を提出することも可能です。
e-Taxシステムは火曜日~金曜日のほぼ24時間、月・土・日・休祝日では8時30分~24時で利用可能です。
開業届を提出するデメリット
開業届を提出すること自体には直接的なデメリットはあまりありません。
しかし事業開始に伴う責任や義務が生じるため、いくつかの注意点があることは知っておきましょう。
青色申告を受けるための手間がかかる
青色申告を利用するためには、複式簿記による帳簿作成など手間のかかる会計作業が必要です。
適切な会計処理を行わないと、青色申告のメリットを享受できないだけでなくペナルティのリスクもあります。
自分で帳簿作成ができない場合には、税理士に依頼する必要が出てくるかもしれませんが、当然費用が掛かるためその費用も捻出しなければなりません。
税務調査のリスク
開業届を提出すると、税務署の管理下に置かれるため税務調査の対象となる可能性が増大します。
特に申告内容が不正確な場合や、経費処理に問題があると税務署の調査が入ることがあります。
それらの不安を払拭したい場合は、やはり税理士に依頼して正確な帳簿作成をお願いするとよいでしょう。
社会的信用が低くなる場合も
個人事業主は、法人と比べるとどうしても社会的信用が低いと見なされてしまいます。
たとえば、融資の審査が厳しくなったり、取引先との契約に不利な条件が付く場合があります。
配偶者の扶養に入っている際には注意が必要
配偶者の扶養に入っている場合には、各健康保険組合が定めている加入条件を改めて確認する必要があります。
加入している健康保険の被扶養者になっている場合は、開業届を提出し、収入または所得が一定金額を超えた場合には被扶養者から外れる可能性もあります。
扶養から外れると、収入金額によっては自身で国民年金保険料と国民健康保険料を納める必要が出てくることがありますので注意が必要です。
まとめ
開業届を提出しなくても事業自体を始めることはできますし、ペナルティはありません。
しかし、開業届は個人事業主としての事業を開始する際、1ヶ月以内に税務署へ「開業届」を提出することが義務づけられているものです。
開業届を提出することで、事業をこれからスタートするんだという対外的な意思表示になりますので、後回しにしてしまうことなく忘れずに提出することを心掛けましょう。