法人や団体を設立する際に耳にすることがある「LLP」。通常株式会社や合同会社を設立することは多いものの、LLPを設立するという選択肢もあるのですが、「詳しく知らない」「どのように立ち上げるか情報があまり出回っていない」などの理由から、LLPを選択する人は少ないようです。

実際のところ、LLPとはどのような組織を言うのでしょうか?株式会社や合同会社(LLC)などとの違いについて見ていきたいと思います。

LLPとは?

LLPは2005年に経済産業省により定義された「有限責任事業組合」という組合制度のこと。「Limited Liability Partnership」を略したこのLLPは法人ではありません。経済産業省の定義でLLPは、「創業を促し、企業同士のジョイント・ベンチャーや専門的な能力を持つ人材の共同事業を振興するために創設した、1.出資者全員の有限責任、2.経営の柔軟性、3.構成員課税の適用が特徴で、法人格のない組織形態」を意味しています。LLPの設立には最低2人以上が必要であること、資本金は2円以上(2人が1円以上)必要となります。

LLPでは、出資者が出資額に応じて責任を負う形で事業を行う有限責任となっています。出資すると個人法人問わず、誰もがLLPの組合員となることができます。また、LLPは内部自治原則が取られ、権限や利益が出資額に関わらず自由に決定できます。

さらに、先ほどお伝えしたようにLLPは法人ではないため、構成員課税として利益に対する課税が組合員に直接課せられる「パススルー課税」の適用があるのも特徴です。これは組合員が法人であれば法人所得税が、個人であれば所得税が課せられるようになっており、LLPの組合自体には課税されません。

LLPと株式会社の違いとは?

LLPと株式会社の大きな違いは資金に関する部分です。株式会社の場合には出資比率によって権限や利益配分が変わりますが、LLPにはその概念がありません。そのため、わずかな出資しか行っていない場合でも、十分な利益配分を受けることができる可能性があるのがLLPのメリットとなります。

また、LLPは設立費用が抑えられる点もメリットの一つです。株式会社設立の場合にはおよそ25万円程度の費用がかかりますが、LLPであれば6万円で設立ができます。資金に余裕がない人の場合には、手っ取り早く会社を立ち上げることができるのである意味便利です。また、決算公告の義務がないため、株式会社と異なり、株主に対して決算書を提示する必要がないことや、損益通算できることなどもポイントとなります。

一方で、LLPは法人格でないことから、契約締結の場合などでは契約主体になることができません。その結果、取引先と契約締結には個々人の肩書付きの名義での契約になります。その点株式会社であれば当然ながら法人格を持つので、会社での契約が可能です。

また、LLPでは組合として許認可を取得することができないため、許認可が必要な業務を行う場合にはLLP組合員が個人で許認可を取得するなどしなければなりません。

LLPと合同会社の違いとは?

合同会社はLLC(Limited Liability Company)と訳されることもあり、LLPと混同されることもありますが、この合同会社はLLP寄りというよりも株式会社に近い存在です。合同会社は法人格を有しているので、株式会社に変更することもできます。合同会社は1人でも設立できるので、2人以上のLLPより設立は気楽に行えます。

合同会社はLLC同様、設立費用が安く済み、登録免許税6万円と収入印紙代が4万円(電子定款の場合は不要)など約10万円で会社設立ができます。法人であるため、経費部分の範囲が個人事業主よりも広く、節税効果はLLPに比べると大きくなります。

LLPのデメリット

LLPは株式会社や合同会社に比べての知名度が非常に低いです。再三お伝えしているように、LLPは法人格がありません。法人でない点も踏まえると、顧客や金融機関からの信用が得にくいという点が大きなデメリットとなります。よって、大きな組織に展開することはかなり難しく、小規模事業を展開する際にはある意味功を奏する場合があります。また利益が出た場合、税金の負担が大きくなってしまうのもLLPのデメリットです。

また、LLPは組合として営利目的の活動を行ってはいるものの、「有限責任事業組合契約に関する法律施行令」により、以下の業務を行うことができません。

第一条 有限責任事業組合契約に関する法律(以下「法」という。)第七条第一項第一号に規定するその性質上組合員の責任の限度を出資の価額とすることが適当でない業務として政令で定めるものは、次に掲げるものとする。

一 公認会計士法(昭和二十三年法律第百三号)第二条第一項に規定する業務
二 弁護士法(昭和二十四年法律第二百五号)第七十二条本文の規定により弁護士又は弁護士法人でない者が行うことができない業務
三 司法書士法(昭和二十五年法律第百九十七号)第三条第一項に規定する業務
四 土地家屋調査士法(昭和二十五年法律第二百二十八号)第三条第一項に規定する業務
五 行政書士法(昭和二十六年法律第四号)第一条の二に規定する業務
六 海事代理士法(昭和二十六年法律第三十二号)第一条に規定する業務
七 税理士法(昭和二十六年法律第二百三十七号)第二条第一項及び第二条の二第一項に規定する業務
八 社会保険労務士法(昭和四十三年法律第八十九号)第二条第一項第一号から第二号までに掲げる業務
九 弁理士法(平成十二年法律第四十九号)第四条第二項、第五条第一項、第六条及び第六条の二第一項に規定する業務並びに同法第七十五条の規定により弁理士又は弁理士法人でない者が行うことができない業務

(組合の債権者に不当な損害を与えるおそれがある業務)
第二条 法第七条第一項第二号に規定する組合の債権者に不当な損害を与えるおそれがある業務として政令で定めるものは、次に掲げるものとする。
一 当せん金付証票法(昭和二十三年法律第百四十四号)第二条第一項に規定する当せん金付証票の購入
二 競馬法(昭和二十三年法律第百五十八号)第六条第一項及び第二項(同法第二十二条において準用する場合を含む。)の勝馬投票券の購入
三 自転車競技法(昭和二十三年法律第二百九号)第八条の車
券の購入
四 小型自動車競走法(昭和二十五年法律第二百八号)第十二条の勝車投票券の購入
五 モーターボート競走法(昭和二十六年法律第二百四十二号)第十条第一項及び第二項の舟券の購入
六 スポーツ振興投票の実施等に関する法律(平成十年法律第六十三号)第八条第一項及び第二項のスポーツ振興投票券の購入

以上の業務はLLPにおいては行うことができません。また、ギャンブルによる収益を得ることも制限されています。これらの制約は「LLP法第7条」と「同法施行令第1条、第2条」によって規定されています。

有限責任事業組合契約に関する法律施行令

LLPに向いている事業

法人格を持たず、信用度が低いLLPではありますが、どのような事業体に向いているのかというと、さまざまな業種業態が共同で出資し何かを行うといった場合に展開しやすいと思われます。たとえば、法人と個人、大企業と中小企業、産学連携、ベンチャー事業にはLLPが向いています。

LLP設立の流れ

LLPの設立は、公証役場で公証人による定款認証がないことから、株式会社や合同会社に比べると非常に簡単です。
設立の大まかな流れについては以下のようなものになります。

STEP1:設立準備

組合立ち上げ発起人により基本事項の制定を行います。そして組合契約書を作成します。組合契約書とは株式会社や合同会社の定款と同様なもので、組織運営に関する基本事項をまとめたものとなります。契約書を作成したのち、組合員が署名押印し、それぞれ保管します。

組合契約書には、

  • 事業内容
  • 名称
  • 事業所在地
  • 組合員氏名または法人名、住所
  • 組合員出資の目的その価額
  • 契約効力発生日
  • 存続期間
  • 組合の事業年度

などの絶対的記載事項に加え、

  • 組合員総会開催時期、招集方法
  • 財産の帰属
  • 財産の分配
  • 加入、脱退、除名、解散

などの任意的記載事項についても必要とあれば記載します。

STEP2:組合構成員による出資金の払い込みおよび現物出資

出資金を金銭にて払い込みする場合、現物出資をする場合には財産の引継ぎや引き渡しを行います。

STEP3:組合設立登記申請

LLP設立準備ができたら、管轄の法務局に契約登記申請を行います。設立年月日は登記申請日となり、申請が受理された日ではありません。

STEP4:組合設立登記完了

申請内容に問題が無ければ、申請から1週間~10日後に登記が完了となります。完了後は登記簿謄本や印鑑証明書の取得が可能になります。

STEP5:役所への届け出

登記簿謄本や印鑑証明書の取得が可能となると、税務署や市区町村税事務所、県税事務所、年金事務所、労働基準監督署、ハローワークなどへ必要に応じた各種届出を行います。

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