法人設立時にどのような会社形態にするかは、その後の事業展開においても重要となる要因のひとつです。一般的には株式会社が最も有名な存在ですが、なかには「合同会社」という形態もあり、こちらを選択する人も増えています。その一番の理由は設立コストの安さ。株式会社設立に比べると大幅にコストをかけずに法人設立ができるため、事業スタート時にあまりお金をかけずに始められる場合に選ばれることが多いです。
実は誰もが知る大手企業が合同会社であることも多く、「アップルジャパン合同会社」「グーグル合同会社」「アマゾンジャパン合同会社」など、株式会社ではなく合同会社で展開している点には驚く限りです。
今回は、合同会社設立のメリット・デメリットについて、また株式会社との違いについて深く掘り下げてみていきたいと思います。
目次
合同会社とは?
合同会社とは、2006年に会社法改正で設けられた会社形態で、アメリカのLLC(Limited Liability Company)がモデルとなっています。合同会社の特徴としては出資者が会社経営者となり、会社の所有と経営が一致しています。なかでも出資者の中で代表権を持つ社員は「代表社員」と呼ばれます。
また出資者全員が有限責任社員となるといった特徴もあり、万が一会社が倒産した場合には、出資額を限度として責任を負う義務が発生します。たとえば、1,000万円の負債を抱えて倒産した場合には、自分の出資金が400万円だった場合、400万円以上の負債を支払う義務は発生しません。さらに役員の任期について定める必要がなく、株式会社のような最低10年での任期登記費用がかかりません。
合同会社の役職について
次に、合同会社の役職について知っておきましょう。
代表社員
合同会社の代表は代表社員となりますが、これは株式会社の代表取締役と同義の存在です。合同会社の場合は社員が同等の権限を保持しているため、意思決定時に混乱を招く場合がありますが、代表社員がいることで意思決定を円滑に行うことが可能となります。
業務執行社員
合同会社の業務執行社員とは、株式会社における取締役と同義の存在です。経営に関わる存在として会社内で業務執行権を行使することができます。定款に記載することで一般社員と異なる立場として明確に分けることが可能です。
社員
上記の代表社員、業務執行社員に該当しないメンバーを社員と定義します。基本的には全ての社員が経営に参加できるのが合同会社の特性でもありますが、経営に参加しない社員の区分として設けられることがあります。
合同会社設立のメリット・デメリット
ここからは、合同会社設立のメリット・デメリットを株式会社と比較した場合で見比べていきます。
株式会社との違いで見る合同会社設立のメリット
合同会社設立のメリットとして、最初に述べた「設立コストの安さ」が最も大きなメリットと言えるでしょう。株式会社設立費用は約25万円程度となりますが、合同会社設立の場合には約10万円程度と半額以下で済みます。最安の場合、6万円前後で済むこともあります(電子定款認証の場合)。小規模でビジネススタートを考えている人や、自己資金に乏しい場合には合同会社でスタートするという選択肢は十分あります。また、合同会社は役員更新手続きや株主総会にかかる費用もありません。
加えて、合同会社は株式会社と同様に普通法人扱いのため、法人税の節税メリットがあります。たとえば、欠損金の繰越では最大10年間(2018年4月以前にスタートした事業年度の欠損金は最大9年)の事業による欠損金を繰り越すことができます。また、個人の場合、自身の給与を経費計上することができませんが合同会社であれば、法人であるため、役員報酬としての定期同額給与を損金算入することができます。
さらに、合同会社の設立には定款認証が不要であるというメリットもあります。また、合同会社では会社の経営と所有が一致しているため、株主総会の開催は必須ではなく、会社の意思決定がスムーズかつ迅速に行われます。さらに、合同会社には決算公表義務がないため、業績情報が外部に公開されることもありません。
株式会社との違いで見る合同会社設立のデメリット
合同会社には多くのメリットがありますが、以下のようなデメリットも考慮しなければなりません。そのため、設立時には慎重になる必要があります。
まず、合同会社は株式会社と比べて知名度が劣るため、一般的には株式会社よりも信用度が低いと見られています。そのため、案件獲得時にマイナスの影響を与える可能性があります。取引先が会社の規模を重視する場合もあるため、事前によく検討することが重要です。
また、資金調達方法についても考慮する必要があります。合同会社では株式発行による資金調達ができないため、大規模な融資を受けることは難しいでしょう。資金調達には助成金や補助金の活用が現実的な方法となります。さらに、合同会社では株式発行ができないため、将来的に上場を目指す場合には株式会社で事業を立ち上げる必要があります。
その他、合同会社では社員が同等の議決権を持つため、経営上の意見対立による混乱が起きる可能性もあります。特に金銭に関する問題は避けたいですが、利益配分などについても定款に明記することが重要です。
合同会社設立方法について
合同会社は、株式会社と同じような流れで設立が行われます。
- 会社の基本的な項目を決定
- 定款を作成
- 登記書類の作成
- 登記申請
- 各種書類を提出(法務局、労働基準監督署、都道府県税事務所、市区町村役場、ハローワークなど)
特に重要なのは会社の基本事項の決定です。
必要となるのは
- 商号(屋号)
- 事業目的
- 本店所在地
- 資本金
- 発起人氏名および住所
- 会計年度
などです。事業目的については定款に記載されない事業を行うことはできませんので、将来的に展開したい事業として検討しているものがあれば事前に記載しておきましょう。ただし、主たる事業と関連のないビジネスを記載するのはかえってマイナスとなる場合がありますので(例:IT企業が飲食や建築業を行うなど)、注意しましょう。
また、資本金は株式会社同様1円より設立が可能です。ただし、資本金1円で起業することは信用度の面からあまり好ましくありません。少なくとも3ヶ月から半年は売上がなくても事業継続できるぐらいの資本金(自己資金)を用意しておきましょう。
さらに、合同会社設立に必要な登記書類として
- 定款
- 印鑑届出書
- 社員の印鑑登録証明書
- 払込証明書
- 代表社員、本店所在地及び資本金決定書
- 代表社員就任承諾書
- 登記用紙と同一用紙
- 登録免許税納付用台紙
- 合同会社設立登記申請書
などが必要です。これらの記載方法がわからない場合には司法書士に依頼することもできますが、コストをあまりかけたくない場合には、法務局で書き方を教えてもらったり、ネットの情報を参考に自分で書類作成するのも良いでしょう。
合同会社と株式会社、どちらがおすすめ?
ここまで、合同会社と株式会社を比較しながら見てきましたが、実際にはどちらがおすすめと言えるのでしょうか?
設立費用などの部分を除き、資本金や社会保険料、法人税などにおいても違いがない2つの会社形態において、社会的な信用度や将来の事業展開を考慮するのであれば、やはり株式会社でスタートすることがおすすめだと思います。しかし、初期コストをあまりかけたくない、事業を大きく拡大する予定がないという場合には、合同会社でも十分なメリットがあります。
もちろん、合同会社設立後に株式会社に形態変更することは可能ですが、コストもかかり手続きも面倒です。その点を踏まえて、会社設立時の選択は慎重に行いましょう。