「記憶力が落ちた」「同じことを繰り返してしまう」ということがありますよね。年を重ねると、そうした現象が起こることは誰にでも起こり得ます。しかし、そうなった時に「自分だけは大丈夫」と思っていませんか?40代も後半になると、脳が衰えてきて記憶力も低下してしまうものです。ただし、脳のトレーニングを行うことで、記憶力の低下を完全に止めることはできませんが、そのスピードを緩やかにすることは可能です。そのために重要なのが「前頭葉」です。
今回は、脳の老化を防ぐために前頭葉を鍛える方法について見ていきたいと思います。
目次
脳の老化とは?
脳の老化は、年齢とともに脳の構造と機能が自然に変化する現象です。一般的には健康な加齢の一部と考えられますが、これにより認知能力、記憶、注意力、速度などの脳の機能が徐々に衰えることがあります。
たとえば、加齢に伴い特に前頭葉と側頭葉の体積が減少しますが、これらの領域は意思決定や問題解決、記憶に関与している部分であるため、記憶の低下につながります。また、神経伝達物質の生産や利用の減少、シナプスの減少、血流の低下など、さまざまな要素が加齢とともに低下していきます。
これらの変化は、記憶や注意力、処理速度、問題解決能力などの認知機能に影響を及ぼす可能性が高いものです。しかし、脳は驚くべき適応能力を持っており、新しい神経回路を形成する能力(神経可塑性)があるため、健康的な生活習慣(良好な食事、適度な運動、十分な睡眠、社会的なつながりの維持など)を通じて、ある程度の脳の老化を遅らせることができます。さらに、特定の認知トレーニングや学習活動によって脳の健康を維持し、認知機能を改善することも実証されています。
前頭葉とは?
前頭葉とは、脳の大脳皮質の四つの主要な部分のひとつで、脳の前部に位置しています。この前頭葉は非常に重要な役割を果たしており、思考や意志決定、計画、判断、社会的行動、人格、そして身体の動きの制御などに関与しています。
前頭葉は、「前頭前野」「運動野」「前運動野」と3つの部分に分けられます。
前頭前野
前頭前野(prefrontal cortex)とは、前頭葉の大部分を占めており、複雑な認知行動、人格表現、意思決定、社会行動の調整に重要な役割を果たします。脳の中でも重要な部分であり、老化に伴って最も早く機能低下が起こる部分でもあります。
運動野
運動野(primary motor cortex)とは、身体の各部位の運動を制御する部分で、脊髄に神経線維を送り、運動開始と調節に関わる大脳皮質の領野のことを言います。運動野から出る信号が筋肉に送られることで、身体の動きを引き起こします。
運動前野
運動前野(premotor cortex)とは、運動野の前に位置し、計画された自発的な動きの調整と実行に関与します。運動前野には、運動と動作を誘導したり感覚情報と動作の連携を行ったり、動作のプランの形成をする機能があります。
前頭葉は、他の大脳皮質の部分や脳の他の構造(視床下部、基底核、海馬など)とも連携して働きますが、これら全体が連携することで人間の思考や感情、記憶、行動が形成されています。
海馬とは?
もうひとつ、脳の働きに関係する領域として前頭葉の他に海馬があります。海馬とは脳の一部で、大脳の側頭葉深部に位置しています。その形状が古代の神話に登場する海の生物、ヒポカンパス(前半が馬で後半が魚の生物)に似ていることからこの名前が付けられています。
この海馬ですが、記憶の形成と学習、特に長期記憶への移行に重要な役割を果たしています。特に、場所や方向感覚といった空間記憶と関連付けられる事柄の記憶に関与していると考えられています。また、海馬は感情の処理にも関与しており、特にストレスとその物理的な影響に対する脳の反応を調節しています。さらに、新たなニューロンの生成も海馬で行われるとされています。
海馬は老化やストレス、アルツハイマー病などの脳の疾患に対して特に敏感であり、これらの症状下で機能低下や体積減少が見られます。そのため、良好な生活習慣や健康的な食事、十分な睡眠、適度な運動、ストレス管理などが海馬の健康を維持するために重要とされています。
前頭葉を鍛えるメリットとは?
前述の前頭葉や海馬は、加齢とともに機能低下していきます。しかし、前頭葉を鍛えることで以下のような効果・メリットを得ることができます。
老化の予防
前頭葉を鍛えることで、その領域の健康を保つことができます。たとえば、アルツハイマー病などの神経疾患のリスクを減らして脳の健康的な老化をサポートできる場合があります。
認知能力や記憶力の改善
前頭葉を鍛えると、複雑な問題を解決する能力や新しい情報を学ぶ能力が向上します。これは新たな課題に対応したり、新しいスキルを習得したりするのに役立ちます。また、前頭葉は情報保持と適用といったワーキングメモリに重要な役割を果たしています。この部分を鍛えることで、短期記憶と情報の管理能力が改善されます。
意志決定能力/社会スキルの向上
前頭葉は意志決定に関与しているため、鍛えると良好な意志決定能力が向上します。これは日々の生活や仕事場での決定を下す際に役立ちます。さらに、前頭葉は社会的な行動の調整にも関与しており、前頭葉を鍛えることで社会的なスキルが向上します。それにより、他者との関係をより円滑にし、より良好な人間関係を築くことが可能です。
身体的な動きの改善
前頭葉には運動に関連する領域も含まれています。そのため、前頭葉を鍛えることで身体の動きや調整能力が向上することが期待されます。
前頭葉を鍛えるには?
前頭葉を鍛えるためには、脳を活性化させるような活動を行うことが一般的に推奨されています。
ここからはいくつかのトレーニング方法をご紹介します。これらのトレーニングは前頭葉だけでなく、全体的な脳の健康と機能を維持・向上させるのに役立ちます。
認知トレーニング
パズルや脳トレゲーム、数独、クロスワードパズル、ナンプレ、麻雀、チェスなどの脳を鍛える活動は、前頭葉の認知機能を向上させるのに役立ちます。どれをやったとしても脳を鍛えることは可能ですが、あまり簡単なものを行ってもトレーニングにはなりません。難易度の高い脳への刺激・負荷があるものを選んで行うようにしましょう。
新しい学びの実現
たとえば新しいスキルを学んだり、新しい言語の勉強、新しい楽器の習得など、新しいことを学び続けることも脳を活性化させ、前頭葉の機能を向上させるのに役立ちます。その際には自分以外の人と触れ合えるリアルなコミュニケーションを求めると継続性が高まるだけでなく、記憶力低下を遅らせられる可能性は高くなります。
適度な運動
適度な運動により体を動かすことで、脳に血液を送ることができて酸素と栄養が供給されます。その結果、全体的な脳の健康に良い影響を及ぼし、前頭葉の機能を良い状態に保ちます。
健康的な食事
当たり前のことかもしれませんが、適切な栄養素は脳の健康と機能に不可欠です。たとえば、オメガ-3脂肪酸、ビタミンB群、ビタミンD、抗酸化物質などを豊富に含む食事を摂ることは、脳の健康を維持し前頭葉の機能を支えるのにとても役立ちます。
十分な睡眠
睡眠中に脳は一日の情報を整理し、新しい情報を学ぶために必要なシナプスを強化します。そのためには、良い睡眠は脳の健康にとって重要な要素の一つです。
ストレス管理
長期的にストレスを抱えることは脳に悪影響を及ぼします。たとえば、リラクゼーションテクニック、マインドフルネス、瞑想などを活用してストレスを管理することで、脳の健康に良い影響を及ぼします。