
商品やサービスをより効果的に届けるためには、ターゲットとなる顧客を具体的にイメージすることが欠かせません。そこで活用されるのが「ペルソナ」という概念です。
ペルソナとは、年齢や性別、職業、価値観、行動パターンなどを細かく設定した架空の理想的な顧客像のこと。単なる属性情報ではなく、まるで実在する人物かのように緻密に描かれるため、マーケティング施策や商品開発、営業戦略などに一貫性と具体性をもたらします。
そんなペルソナですが、マーケティングに馴染みがない人にとっては、「作り方がよくわからない」「そもそもペルソナってなぜ必要なの?」といった疑問を抱くことも多いのではないでしょうか。本記事では、ビジネスにおけるペルソナについて詳しく解説します。
ペルソナとは?
ペルソナとは、ビジネスやマーケティングシーンにおいて、自社商品やサービスを利用する「理想的な顧客像」を、あたかも実在するかのように具体的に設定した架空の人物モデルのことを指します。たとえば、年齢や性別、職業、家族構成、住んでいる地域、日々の行動習慣、価値観、抱えている悩みやニーズなどを細かく描き出し、まるでその人物が本当に生活しているかのようにリアルに構築します。
名前:高橋彩音(仮名)
年齢:28歳
性別:女性
職業:都内の広告代理店勤務(マーケティング部門・正社員)
年収:480万円
居住地:東京都中野区 駅から徒歩10分の1LDKに一人暮らし
未婚だが恋人あり
ライフスタイル:平日は忙しく働き、週末はカフェ巡りや映画鑑賞、友人とのご褒美スイーツ巡りが定番。Instagramによく写真を投稿しており、見た目の美しさや「映え」を重視している。広告代理店という仕事上ストレスが溜まりやすく、自分へのプチご褒美としてスイーツを楽しむ習慣がある。健康や美容にも興味はあるが、完全なヘルシー志向ではなく、「我慢せずに幸せを感じられる甘さ」にはお金を使いたいタイプ。
行動パターン:情報源はInstagramやYouTubeのショート動画、友人の口コミ。コンビニスイーツもよく買うが、百貨店のデパ地下や話題のスイーツブランドにも敏感。限定商品や期間限定のキーワードに弱い傾向がある。
価値観:「誰かとシェアしたくなる可愛さ」と「疲れを癒してくれるほんのりした甘さ」の両立を重視。価格は高すぎず、ちょっと贅沢気分が味わえる1個500〜700円程度が理想。SNSで紹介できるようなデザイン性、ブランドストーリーにも惹かれる。
このように具体的にペルソナを設定することで、「どういう商品設計が適しているか」「パッケージやネーミングはどうあるべきか」「どの媒体で情報を発信すべきか」といったマーケティング上の判断をしやすくします。企業側の都合だけで商品を作ったり売ったりしてもうまくいかない現代において、顧客の共感を得るためには「誰のために何を提供するのか」を明確にすることが重要です。だからこそ詳細に描かれたペルソナは、商品企画や広告制作、営業活動、UX設計など、あらゆるビジネス活動の判断基準となります。
漠然としたターゲット層では見えてこなかったニーズや行動傾向が明確になり、言葉の選び方やアプローチ方法にも一貫性が生まれます。
ペルソナとターゲットは何が違うの?
ペルソナと似たような言葉にターゲットがあります。この2つはどちらも「顧客を想定する」ための概念ですが、その精度と具体性において大きな違いがあります。
まず「ターゲット」ですが、これは年齢や性別、職業、年収、居住地などの属性情報をもとに、大まかな顧客層を分類したものです。たとえば「F1層(20~34歳の女性)」「地方在住の30代男性」「都市部の共働き夫婦」といったように、マーケティング施策の方向性を定めるための基本的な枠組みとして使用されます。ただし、この情報だけではその人たちが何を求めていてどう行動するのか、といった具体的な生活像までは見えてきません。
一方のペルソナは、ターゲット層の中でも特に代表的・象徴的な人物像を、あたかも実在するかのように詳細に描く手法として存在します。名前やライフスタイル、休日の過ごし方、購買行動、価値観、悩みなどを丁寧に設定することで、その人物の目線に立った商品設計やコミュニケーションが可能となるため、ペルソナはターゲットよりも具体的で、人間らしい視点を持った設計図になります。
まとめると、ターゲットが「誰に届けるか」という外枠なのに対し、ペルソナは「その人がなぜそれを欲しがるのか、どうやって選ぶのか」といった内面に迫るアプローチと言えるものです。両者は対立するものではなく、ターゲットを広く捉えその中から代表的な顧客像としてペルソナを設計する、といった関係にあります。ペルソナを通じ、顧客理解が深まればより実効性の高いマーケティング施策や商品開発が可能となるはずです。
ペルソナが使われるビジネス領域
ペルソナは、顧客やユーザーのニーズを深く理解する必要があるビジネス領域で幅広く活用されるものです。特に相手に何かを届けたり、行動を促すといった目的がある領域では非常に有効な手法とされています。
なかでも、もっとも代表的なのは「マーケティング分野」です。広告のメッセージや媒体選定、クリエイティブの方向性を考えるうえで漠然とした「30代女性向け」よりも、具体的なペルソナを設定することにより表現の精度が飛躍的に高まりますし、SNS投稿のトーンやコンテンツ内容も、ペルソナの人物像を想定することでより響くものになり得ます。
また「商品開発」でもペルソナは重要です。どんな悩みを持つ人がどんな生活の中でその商品を手に取るのか、どの価格帯や機能が響くのかを想像するためには単なるターゲット設定では不十分です。具体的に、化粧品や健康食品、日用品といった分野では、ライフスタイルまで含めた深い理解が求められます。
さらに「UI/UX設計」の現場でもペルソナは欠かせません。アプリやWebサービスを設計する際には、使う人の知識レベルや利用シーンを具体的に想定する必要があります。誰がどんな目的でどのように使うのかを考える上で、ペルソナはとても役立ちます。
ほかには「採用活動」や「社内制度の設計」といった場面でも、理想的な人材像を明確にすることで、企業文化や働き方に合った施策を考えやすくなると言われています。
ペルソナ作成における注意点
ペルソナは単なる想像だけで作るのではなく、実際の顧客データや市場調査に基づいて構築する必要があります。万が一現実離れした空想の人物をペルソナにしてしまうと、むしろ施策がずれてしまう恐れがあるため、信頼性のある情報をもとに現場と連携しながら作成することが重要となります。ここで正しく設計されたペルソナは、チーム全体の認識を統一し、より顧客に寄り添った戦略づくりを可能にしてくれるでしょう。
まとめ
ペルソナは単なるマーケティング手法のひとつではなく、顧客理解を深めて組織全体の意思統一を図るための強力なフレームワークと言われています。誰のために、何を、どのように届けるかを明確にすることで、商品開発やプロモーションの精度が高まり、ビジネスの成果につながります。
ペルソナを正しく活用すれば、企業は一方的な売り手目線から脱却し、真に顧客に寄り添った提案が可能になります。それこそが選ばれるブランドになるための近道と言えるでしょう。