情報の構造設計やユーザー行動の導線設計に強みを持つ情報アーキテクトは、UI/UXデザインやコンテンツ戦略、DX推進などの領域とも密接に関わり、近年ますますその重要性が高まっている職業です。特に、複雑な情報をわかりやすく整理しユーザー目線で再構築できるスキルは、多くの企業にとって喫緊の課題であり、外部のプロフェッショナルに依頼したいというニーズも増加傾向にあります。
今回は情報アーキテクトで起業する方法について見ていきたいと思います。
情報アーキテクトとは?
情報アーキテクトとは、ユーザーが必要とする情報に迷わず直感的にたどり着けるように情報の構造や設計を行う専門職を言います。建築家が空間を設計するように、情報アーキテクトはWebサイトやアプリ、システムなどの情報空間において「情報の土台」をデザインします。単に美しく配置するだけでなく、利用者の行動や思考を読み取りそれに応じた情報構造やナビゲーション、分類体系を構築するのが役割です。
たとえば、ECサイトで商品を探す際に何万点もの中からスムーズに目的の商品へたどり着けるようカテゴリーを設計したり、検索性を高めたりするのは情報アーキテクトの仕事。また、自治体サイトなどの複雑な情報群を誰でも使える形で整理し直すといったケースも多くあります。
こうした設計は、UXやUIとも密接に関わっており、プロジェクトにおける上流工程で重要な役割を担います。
情報アーキテクトの仕事
情報アーキテクトの仕事は、ユーザーが目的の情報にスムーズにたどり着けるようコンテンツやナビゲーション、全体構造を設計することにあります。その中心にあるのは「情報の整理と再構築」であって、単にページの順番を決める作業ではありません。
たとえば、Webサイトのリニューアルを任された場合、まずは既存コンテンツを洗い出し、誰に向けて何を伝えるべきかを明確にします。そのうえで、ユーザーの目的や行動を想定し、情報の優先順位や階層構造を決定していきます。具体的な工程としては、ユーザーインタビューやアクセス解析を通じてニーズを把握し、そこから得た知見をもとにサイトマップやワイヤーフレームを作成、情報の分類やラベリングも情報アーキテクトの担当範囲で、これが曖昧だとユーザーは情報にたどり着けません。さらに、UXデザイナーや開発チームと連携しながら、情報設計が現実的に実装可能かどうかを調整することも重要な仕事のひとつです。
情報アーキテクトの仕事は、裏方のようでいて実はサービス全体の「使いやすさ」や「わかりやすさ」を左右する中核的な役割を担います。情報が多すぎて混乱していたり、逆に不足していて行動を促せなかったりする状態を改善するために、ユーザーと情報のあいだに明確な導線を引くのがメインの仕事です。
情報アーキテクトに求められる力
情報アーキテクトに求められる力は、表面的なデザインセンスや技術スキルとは少し異なり、情報そのものを理解して再構築する思考力と、人の行動を読み解く観察力です。
なかでも最も本質的な力として必要となるのが「情報を構造化する力」です。具体的には、膨大で雑多な情報を分解し、意味のまとまりごとに整理して適切な階層や分類を与えて再配置するスキルです。たとえば、複数の部門や部署から寄せられたバラバラのコンテンツを、「誰に」「何の目的で」届けるかを軸にグルーピングし直し、無駄なく論理的に並べる作業を行います。これは単なる作業ではなく、コンテンツの意図や価値を見極め、構造として再設計する高度なスキルが求められます。
また「ユーザー視点で設計する力」も必要です。情報アーキテクトは、作り手の論理ではなく、使い手の行動や思考の流れを想像しながら情報設計を行います。たとえば、ユーザーがある商品を探す際、どのような言葉で検索しどういう情報を優先して知りたがるかを読み取らなければなりません。ユーザー調査やアクセスログの分析を通じ、ニーズを発見して情報構造に反映させる能力が問われます。
さらに「多職種と連携する力」も非常に重要です。情報アーキテクトの設計は、UIデザイナーやエンジニア、コピーライター、経営層など多くの関係者によって実装・運用されていくため、単に設計図を渡すだけでは機能しません。プロジェクトの初期段階から関わり、各職種の立場や制約を理解しながら適切な対話を重ねて合意形成していくコミュニケーション力が欠かせません。
情報アーキテクトに向いている人・向いていない人
情報アーキテクトに向いている人は、何よりも混沌とした情報の中から秩序を見出すことに喜びを感じられるタイプです。バラバラに並んだデータや文章、断片的な要望を整理し、構造化して意味ある形に整える作業には、地道さと根気が求められます。それを楽しめる人、具体的には地図やフローチャートを見て構造を把握するのが好きな人や、複雑な問題を俯瞰して整理し他人にわかりやすく説明するのが得意な人は、情報アーキテクトの素質があります。
また、ユーザー視点に立ち、「どうすれば迷わず目的の情報にたどり着けるか?」を想像し続けられる共感力も大切な要素。設計する相手はあくまで「使う人である」という意識を持ち、他者の行動や感覚に敏感であることが成功につながります。
一方で情報アーキテクトに向いていない人は、「情報を構造として考えること」に苦手意識があるタイプです。たとえば、物事を感覚や感情で捉える傾向が強く、論理的な整理や説明を避ける人にとって、情報設計という仕事はストレスに感じるかもしれません。
また、ユーザー視点ではなく自分の美的感覚や主観を優先してしまう人も、設計の本質から逸れてしまう可能性があります。さらに、コミュニケーションを避ける傾向のある人も苦戦しやすいでしょう。情報アーキテクトの仕事は一人で完結するものではなく、クライアントやデザイナー、開発者など多くの関係者と対話を重ねながら進めていく協働型のプロセスであるがゆえに、黙々と作業したいだけの人には適性のミスマッチが起こりやすい職種と言えるでしょう。
情報アーキテクトとして独立起業した場合の収入
情報アーキテクトとして独立起業した場合の収入は、スキル・実績・営業力・契約形態によって大きく異なりますが、年収1,000万円以上も十分に狙えます。特にUXやDXの重要性が高まる中で、情報アーキテクトへの依頼ニーズは着実に増えており、フリーランスや小規模事業者として活動している人も多く見られます。
たとえば、Webサイトの情報設計を請け負う場合、1案件あたり30万〜100万円程度の報酬が相場となっています。大規模なコーポレートサイトやECサイト、官公庁系サイトなどでは、情報設計が全体構成の要となるため単価が100万円を超えることもあります。コンテンツ戦略やワイヤーフレーム設計、ユーザー調査などの要素が含まれる場合は、さらに報酬が上乗せされる傾向もあるようです。
ただし、起業初期は案件獲得に苦戦することもあり、実績や人脈がない場合は特に大変です。情報アーキテクトは「目に見えにくい価値」を提供する仕事であることから、信頼や口コミ、ポートフォリオが評価されるまでは、受託ベースの低価格案件を積み重ねながら実績を築いていく必要があります。
まとめ
情報アーキテクトとして独立起業することは、情報設計の専門性を活かして多様な業界と関わりながら、自らの裁量で働ける大きなメリットがあるのが特徴です。特にWebやDX分野の需要が高まる中、情報を整理し使いやすい構造に再設計するスキルは強い武器になります。
しかし一方では、成果が見えにくい仕事だからこそ、クライアントに価値を正しく伝える力や信頼構築が欠かせません。ユーザー視点を貫きつつ、論理と対話の両面で設計を導く姿勢が情報アーキテクトとしての成功につながります。