ビジネスの現場で「スキーム(scheme)」という言葉を耳にしたことはあっても、その意味を正確に理解できていない人も多いのではないでしょうか。日常会話でも使われることのあるこの言葉は、文脈によって異なるニュアンスを持ちます。そのため、間違った使い方をしている人も中にはいるのが現状です。
本記事では、ビジネスで使用するスキームの意味について詳しくお伝えします。
目次
スキームとは?
ビジネスにおける「スキーム」とは、ある目的を達成するために設計された全体的な「枠組み」や「仕組み」「計画」「案」のことを指します。単なるアイデアや思いつきではなく、実現に向けた具体的な手順や構造、関係者の役割、資金の流れ、法律上の手続きなどが明確に整理されているのが特徴です。
たとえば新規事業を立ち上げる際には、収益モデルや資金調達の方法、提携先との契約形態、税務上のメリットやリスクなど、さまざまな要素をシステマチックに設計する必要があります。こうした一連の構想や構造そのものが「ビジネススキーム」と呼ばれるものです。また、M&A(企業の合併・買収)や節税対策、海外進出といった場面でも、戦略的なスキーム構築は欠かせません。
ビジネスにおけるスキームは、成功に向けた「設計図」であり、実行可能性と持続性を左右する極めて重要な要素と言われています。
スキームと混同しがちの言葉
スキームと似た意味を持つ言葉はいくつかありますが、それぞれ微妙にニュアンスや使われる場面が異なります。
プラン
「プラン(plan)」は、スキームと非常に近い意味を持つ言葉で、一般的かつ広く使われており、「やりたいこと」や「目標を達成するための道筋」を表します。一方でスキームは、単なる計画というよりも、「どのような仕組みで実現するか」「関係者の役割や資金の流れ、法律上の構造はどうなっているか」といった、実行に向けた詳細な設計が含まれます。
フレームワーク
「フレームワーク(Framework)」とは、物事を整理・分析・判断するための枠組みや思考の型・構造モデルを指します。汎用的で抽象度が高く、具体的な実行よりも「考えるための道具」として使われることが多いもので、たとえば、マーケティングの「4P」や「3C」、「SWOT分析」などは代表的なビジネスフレームワークとしてよく使用されています。フレームワークが思考の土台として使用されるものであるのに対し、スキームは実行の設計図となるものという点で異なります。
ストラテジー
「ストラテジー(strategy)」とは、日本語で「戦略」と訳される言葉で、特に中長期的な視点での大枠の方針や勝ち筋を意味します。スキームが実行手段や具体的構造に重きを置くのに対して、ストラテジーは「どの方向に進むべきか」という全体方針を示す際に使う言葉です。
プロジェクト
「プロジェクト(project)」とは、一定の期間の間、目標を持って進行する業務や活動を指し、スキームを現場で具体化する手段と言えるものです。スキームはプロジェクトの中で使われる設計図のようなもので、プロジェクトの一部として機能するものと覚えておくとよいでしょう。
スキームの種類
ビジネスにおけるスキームと一口に言っても、使われる分野や目的によってさまざまな種類があります。ここからはよく使われるスキームの種類について見ていきます。
ビジネススキーム
「ビジネススキーム」とは、新しい事業やサービスを実現するための構造や仕組みのことです。収益モデルやパートナー構成、契約形態、顧客との関係性、資金の流れなどが含まれます。たとえば、サブスクリプション型の収益スキーム、フランチャイズスキームなどといった言葉はよく耳にするものです。
ファイナンススキーム
「ファイナンススキーム」とは、資金をどのように集めて配分し、返済していくかを設計したものです。ここでは投資家や金融機関、企業間の役割分担やリスク分散の仕方が明確に決められます。具体的には、プロジェクトファイナンススキーム、リーススキームなどといった使われ方がなされます。
税務・会計スキーム
「税務・会計スキーム」とは、税負担を適性の形にするため、企業取引や資金の流れを構造化するものです。合法的な節税を目的とする場合が多いですが、税制を悪用するようなスキームは「租税回避スキーム」として問題視されることもあります。タックスプランニングスキーム、連結納税スキームといった名前で使用されることがあります。
教育研修スキーム
教育研修スキームとは、人材育成やスキル習得を目的としたカリキュラムや指導の仕組みを指します。教育目標に沿った学習の進行計画や評価制度なども含まれます。具体的には、企業内研修スキームやeラーニングスキーム、スキルマップ連動型育成スキームといったように使用されます。
スキームの作り方
スキームを作るためには、単なるアイデアを、実現可能な仕組みに落とし込んでいく必要があります。要するに、目的を達成するために「誰が」「何を」「いつ」「どう動くのか」を論理的かつ実務的に整理・設計していく作業をしなければなりません。
具体的なスキームの作り方は次の流れになります。
目的・ゴールを明確にする
まずは「このスキームで何を実現したいのか?」を明確にしましょう。たとえば「補助金を活用して再エネ導入を促進したい」「資金調達を効率化したい」といったものです。この段階での目的が曖昧だと、仕組み全体がブレやすくなります。
ステークホルダーを洗い出す
次に、誰が関わるのかを把握し、それぞれの役割や利害関係を整理しましょう。自社、顧客、行政機関、金融機関、パートナー企業などを列挙し、誰にとってメリットがあるのか、リスクは誰が負うのか、といった視点も盛り込みます。
プロセス設計
目的に至るまでの流れを時系列で整理していきます。この際に、資金の流れや情報のやりとり、契約関係、手続きの順序などを明示しましょう。図やフローチャートを使うと、視覚的にもわかりやすくなります。
制度や法的条件を確認する
補助金要件や税制優遇措置、各種申請手続き、リスク管理体制など実行に必要な制度や法律、契約条件、税務上の影響についても忘れずにチェックしておきましょう。この部分を曖昧にすると、スキームが機能しない机上の空論になることもあります。
コストや収益バランスを考慮する
スキーム自体が経済的に成り立つかどうか、リスクは適切に分散されているかを検討しましょう。その際に、収益モデルや費用配分、資金調達方法もスキームに組み込む必要があります。
テスト・フィードバックを実行
スキームが理論上完成しても、実際に動くかは別の話。小規模パイロット運用や関係者からの意見を取り入れ、必要に応じて改良を加えるなどの作業が必要です。
まとめ
スキームは、目的達成に向けて設計された実行可能な仕組みや制度のこと。ビジネス現場では、さまざまな要素を具体的に構造化し、実行のための設計図を作成することにほかなりません。ただスキームが複雑すぎると、関係者が理解しづらく運用ミスや混乱の原因になります。そのため、必要な要素に絞ること、構造はシンプルかつ明快にすることが成功の鍵となります。
このスキーム作りでは、構想から設計、実行可能な形への落とし込みという流れで進めていきますが、ビジネスはただの計画やアイデアでは動かすことができません。ステークホルダーが納得し、実際に動ける具体的な仕組みとして設計することが、スキーム作成の本質です。